コンチェルト ~沙織
熱いシャワーに打たれながら、沙織は胸に溢れる愛しさに戸惑っていた。
前の彼と結ばれた後で、沙織はこんな気持ちにならなかった。
一つの儀式を済ませただけで、愛も歓びも感じなかったから。
前の彼の自己満足な行為は、沙織の心を寂しくさせ、満たすどころか諦めを教えた。
抱かれる度に不満と不安に包まれた。
そして、体を許した途端、態度が尊大になった。
昨夜、紀之と結ばれる時、沙織は何も期待していなかった。
前の彼に与えた時と同じように、一つの儀式と思っていた。
もう大人だから。拒むなんて幼稚だと。
でも紀之は沙織の思いを覆した。
紀之は、優しくて温かくて。
思いやりに満ちた 溢れる愛で、沙織を包み夢中にした。
未知の歓びに戸惑う沙織を、愛おしそうに抱いていてくれた。
何も言わずに、そっと。
『どうしよう。私、紀之さんが好きだ。』
沙織はシャワーを浴びながら、そっと涙を流していた。