コンチェルト ~沙織
「私、いつも紀之さんにご馳走になっていて。ここの会計も。少しは払わせて。」
沙織を待たせて、チェックアウトを済ませた紀之。
ホテルを出てから、沙織は遠慮がちに言う。
「好きな人には、何でもしてあげたくなるの。それに、知っているでしょう。俺、御曹司だよ。」
初めて言われた甘い言葉。
付足した冗談で、沙織の負担を取り除く紀之。
沙織は頬を染めて、紀之を見つめる。
嬉しかったから。“好きな人”と言われたことが。
「ありがとう。」感動に震える声で、お礼を言う沙織。
紀之は甘い目で見つめてくれる。
やっぱり紀之は、自分のものを大切にする人だ。
すべてを許しあった後の沙織を、優しく守ってくれる。
いつも通りの楽しい会話。
明るい冗談で、沙織を笑わせながら、肩を抱いて歩く。少し恥ずかしそうに。