コンチェルト ~沙織
12
「今日、紀之さんのお父様、銀行にいらしたわ。」
会えない日は、夜、電話で話す二人。
「もしかして、親父を手伝ってくれた人って、沙織?」
紀之は、驚いた声で言う。
「手伝うなんて。ATM操作で困っていらしたから。私、紀之さんのお父様だって、知らなかったの。」
紀之が、銀行でのことを知っていたことが、意外だった。
「親父、すごく喜んでいたよ。美人で感じの良い子が、親切に教えてくれたって。」
紀之は、嬉しそうに言う。
「やだ、褒め過ぎ。紀之さんのお父様って知っていたら、もっと親切にしたのに。」
急に恥ずかしくなる沙織に、
「大丈夫。沙織は、誰にでも親切だから。」と言って、短い沈黙の後、
「だから心配。」と言う紀之。
そんな言葉も紀之から言われると、胸が熱くなる。
滅多に言わない紀之だから。
とても嬉しくて。
「ありがとう。」沙織は、小さくかすれる声で答える。
電話越しの甘い空気。