コンチェルト ~沙織
その日は、二人とも幸せなハイテンションだった。
小さなことにも、声を出して笑ってしまう。
嬉しくて、幸せで。お互いが愛しくて。
この先もずっと一緒にいられる安心。
二人の意志を確認し合ったから。
「紀之さん、父に会わせるの、嫌だなあ。」
夜、クリスマスディナーを食べながら、二人は今後の具体的な話しをする。
「お父さん、怖い?」
多分、紀之が想像している父親像とは違う。
「怖いっていうか、変わっているの。」沙織が言うと、
「反対されたら、どうしよう。」と紀之は、心配そうに言う。
「反対されてもいいけど。私の気持ちは、変わらないから。ただ、紀之さんに不愉快な思いをさせることが、嫌なの。」
沙織は強い目で言う。
「俺は大丈夫だよ。沙織のお父さんだよ。不愉快になんか、ならないよ。」
と紀之は明るく言う。沙織は、首を振りながら、
「本当に嫌な人なの。横柄で尊大で。紀之さん、何言われても、気にしないでね。」
父のことを考えると、今の幸せが半減する。沙織は、苦笑して首を振り、
「今日は、父のことを考えるの、止めた。せっかくなのに。」
と言うと、紀之は声を上げて笑い、
「出た。沙織の刹那主義。」と言う。
「せっかくのお料理だもの。美味しくいただきましょう。」
笑顔で言う沙織に、紀之は大きく頷き、
「沙織のそういう所が、いいんだよな。」と言った。
そして言った後で、すこし照れて沙織を見る。
紀之の照れた顔に、逆に沙織が照れて、頬を染める。
「だめだ。照れの連鎖。」
沙織の顔を見た紀之が、顔を赤くしながら言う。
そして、二人で爆笑してしまう。
「俺達、シャイ過ぎない?」
「うん。」
愛を伝えられない二人だから。今日のプロポーズは、特別で、嬉しかった。