コンチェルト ~沙織
その日から 銀行に行く度に 沙織を見てしまう。
誰に対しても 穏やかな笑顔で接している沙織。
表情に裏表がなく、いつも淡々と仕事をこなしている。
紀之は、可愛い笑顔で媚びてくるような女性が苦手だった。
そういう女性は、意外に計算高く裏表がある。
甘い言葉を強要し 一度でも言ってしまうと それを武器のように束縛する。
学生時代 紀之に近付いてくる女子は みんな そういうタイプだった。
紀之が 軽い冗談でかわすと 悔し紛れに ある事無い事を言いふらす。
そんな経験が、紀之の人を見る目を養っていた。
沙織の窓口に呼ばれると、軽く言葉をかける紀之。
沙織も、親しみを込めた笑顔を見せてくれる。
入ってきた紀之と目が合うと 優しい笑顔で黙礼してくれる。
紀之は沙織に惹かれていたから。
そんな些細なことが、とても嬉しかった。