コンチェルト ~沙織
ある日 紀之が銀行に入って行くと 沙織の窓口の番号が鳴る。
一番前に座っていた年配の女性が 杖を突いて 立ち上がろうとする。
沙織は手で制して 小走りにカウンターから出てくる。
お婆さんの前で 通帳と書類を受取り また窓口に戻る。
紀之の心に、温かい風が吹いた。
そういう対応をしている人を、見たことがなかったから。
沙織の優しさに心を打たれた。
数分後 処理が終わった通帳を手に また沙織はカウンターから出てくる。
丁寧にお礼を言うお婆さんに いつもの優しい笑顔で応えて カウンターの中に戻っていく。
この人をもっと知りたい。
もっと色々な場面を見てみたい。
そして、自分の目が間違っていないことを証明したい。
それは、好きになっているということだった。