コンチェルト ~沙織
その日から二日間、銀行に行く用事はなかった。
そのまま週末を迎える寂しさが、紀之を動かす。
「すみません。今日、ちょっと用事があるので、このまま上がります。」
先輩社員に声をかけて、定時で帰り仕度をする。
沙織は、ほとんど残業がないと言っていたから。
沙織が出てくる所で声をかけようと思っていた。
「珍しいですね。お疲れ様。」
普段 勤勉な紀之だから みんな好意的に送り出す。
銀行の通用口が見える場所。
目立たない街路樹の影で 手帳を覗くふりをしながら 沙織を待つ。
もしかして もう帰ってしまったかもしれない。
同僚と一緒に出てくるかもしれない。
不安は色々あったけれど。