コンチェルト ~沙織
紀之が待ち始めて 15分くらいした時 通用口から沙織が出てきた。
モスグリーンのパンツに薄手のコート。
秋らしい沙織の装いも 紀之の好みだった。
「あれ。杉本さん。今、帰りですか?」
小走りに近付いて 後ろから声をかける。
振向いた沙織は いたずらっぽい笑顔で紀之を見た。
「俺も、今日は早く上がれて。偶然だな。」
と言う紀之を、愉快そうに笑う。
紀之の大好きな優しい笑顔。
思い切ってお茶に誘うと、沙織は照れた目で頷いた。
半年以上、見つめていたから。
沙織の、優しくて誠実な人柄を信じられるから。
だからもう一歩、近付きたかった。
はじめて向かい合って話す二人。
沙織は始終心地よい笑顔で。
紀之の冗談に笑い声を上げる。
沙織の計算のない表情は紀之を安心させ、寛がせてくれた。
黙って半年以上 見つめていた紀之。
“俺の目は間違っていなかった”
沙織と話して、沙織の誠実な優しい人柄を確信した。
そして自分が沙織を好きだということも。
大らかで明るいけれど、沙織は繊細な機微を感じ取れる女性だった。
紀之の言葉以上の心を理解してくれた。
照れ屋で心を告げられない紀之を信じてくれた。