コンチェルト ~沙織
その日から頻繁に会うようになった二人。
でも紀之は一度も気持ちを告げなかった。
一緒にいる時間は楽しくて、お互いが相手を寛がせていたけれど。
好きと言わない紀之に、沙織は不満も言わずに付いて来てくれた。
今まで 紀之が付き合った女性は 『ねえ、私のこと好き?』とすぐに聞いたけれど。
そして『もう私を好きじゃないのね』と紀之を責めた。
そういう交際にうんざりしていたから。
言葉で言わないとわからないのか、といつも思っていたから。
何も言わない紀之を信じて、付いて来てくれる沙織にとても癒されていた。
逆に紀之が不安になるくらい。
沙織にとって紀之は、ただの友達なのかもしれない。
そう思った時、紀之は沙織を失う怖さを知った。
沙織以上に自分を理解してくれる人はいない。
沙織ほど自分を寛がせ、癒してくれた人はいなかったから。
沙織と離れたくない。
欲望以上の溢れる思いで、紀之は沙織のすべてを求めた。
体が結ばれた後も、沙織は変わらなかった。
紀之を縛ることもせず、優しく満たしてくれた。
紀之は沙織を喜ばせることに夢中になっていく。
何も言えないから。
沙織が何も聞かないから。せめて沙織の為に。
時々、不安そうに紀之を見つめる沙織。
でも決して紀之を責めない。
どんな風に気持ちを切り替えるのか。
優しく許される紀之は、沙織の大きさに感動していた。
沙織と結婚したい。
一生、傍にいてほしいと思うまで、時間はかからなかった。
ただ、言葉にできなかっただけで。
紀之が言葉にしないから、沙織の気持ちもわからない。
でも紀之は、確かに沙織から愛を感じていた。
そして、同じように沙織も紀之の愛を感じていると信じた。