コンチェルト ~沙織
駅に向かう途中の、しゃれたカフェのドアを押す紀之。
向かい合って腰を下ろすと、
「やっと、ゆっくり会えましたね。」と屈託ない笑顔で言う。
つい沙織も微笑んでしまうような、無邪気な笑顔。
「廣澤さん?は、いつも遅いんですか。」
まだ名前さえ聞いていなかったから。
何と呼んでいいか躊躇する沙織。
「あっ。俺、廣澤紀之です。」
沙織の言葉にはっとして、紀之は名刺を差し出す。
仕事のように丁寧に。
思わず沙織も、丁寧に両手で受取り、プッと吹き出してしまう。
「私は、杉本沙織です。」
名刺を持っていない沙織は、口頭で名乗る。
「沙織ちゃんか。可愛い名前ですね。」
嬉しそうに笑う紀之に、沙織は苦笑する。