妖しな嫁入り
「そばにいてくれたのも、一緒に町へ出かけてくれたのも、私を殺すため?」

「そうです。お強いあなた様を私などが殺せるはずもない。何とかしなければと、信頼を得るために必死でした」

「そう……」

 目論み通り、いつしか私は野菊を信頼しきっていた。

「町で怯える様子を見て好機だと直感したのです。あなた様と別れてすぐ、その人間を探しました」

 当主様を遠ざけるために私を留まらせたわけじゃない。野菊が戻ってこないのも当然だ。

「人間はすぐに見つかりました。向こうもあなた様の様子を伺っていましたから。そして私は逃げ帰った。これで戻ることはないだろうと安堵したのです。けれど朧様は……」

 私の元に来てしまった。そして共に囚われて……これについては本人が望んだことらしいけれど。

「町で姿を眩ませたと、あなた様は逃げたとお伝えしたのです。けれど信じていただけませんでした。朧様はすぐに探しに向かわれて……」

 野菊は覚悟を決めたように踏み出す。藤代は警戒するが、その表情は私に危害を加えるようなものではない。
 私は無事に帰ってきてしまったけれど、緋月の目論見は少なからず成功している。だってこんなにも、胸が痛い。息が苦しい。

「自分がしたことの愚かさを思い知しました。朧様には、あなた様が必要なのですね。主に背いた身です。処分はいかようにも、たとえこの首であろうとも差し出しましょう」

 野菊は深く頭を下げた。
 しだいに渦中の私たちを取り巻く者が増えていく。主人の帰還、そして統括の引き起こした事件となれば見物もしかり。屋敷の妖たちは不安げに様子を見守っていた。

「――と言っているが、椿。処遇はどうする?」

「私が決めて良いの?」

「ああ」

「赦してあげて」

 答えなんて、最初から決まっていた。間を置かず続ければ場が静まる。というより呆れられている? 特に張本人である野菊は正気かという眼だ。

「失礼ながら、椿様。お咎めなしとは、あまりにも……甘すぎるのではありませんか?」

 藤代が異を唱えているけれど判断を誤ったつもりはない。

「野菊の言う通り、私がいけないの。私が間違う前に教えてくれただけ」

「何をおっしゃいます! あなた様を害しようと、疎ましく思っていたのですよ!?」

「それが普通、何もおかしいことじゃない。おかしいのは、朧」
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