妖しな嫁入り
懐柔されるのも癪ではあるが私は黙って箸を持つ。空腹はどうしたって抑えようのない欲求だ。
「いただきます」
誰に言ったつもりもない。聞いていてほしいと思ったわけでもない。
一人での食事は慣れている。だから一人きりで取り残されるのも構わないのに、野菊という女性は居座るつもりのようで、私は無心を決め込み食事を続けた。
藤代はとっくに姿を消している。
「ごちそうさま」
そう告げれば見計らったように善が下げられる。当然のように給仕されたこともあり、私はつられるように「美味しかった」と口にしていた。
「もったいないお言葉です」
野菊は短く告げると部屋を出て行く。
同じ女性としても立ち居振る舞いが洗練されていると認めざるを得ない動きだ。しなやかで無駄がないと、戦いを基準にそんなことを考えた。
やがて藤代が戻ってくると、何故かその手には大量の荷物を抱えている。
「どうしたの?」
あまりにも量が多く不安定な有様だ。
「お見苦しいところを、失礼いたしました」
さすがに本人もきついのか余裕がないと見える。
「これらは全て椿様のものにございます」
「妖狐……その、朧から?」
また同じ問答をするつもりはないので訂正しておく。
「もちろんです。例えば、こちらにお召し変えされてはいかがでしょう」
黄色を深くしたような生地には白い花の模様。一言でまとめるなら『可憐な花柄の着物』を提示されている。
私にも物を『可愛い』と感じる心が残っていたのね。戦いに身を費やしてばかりの人間には久しい感覚――ではなくて。
「これを私に着ろと言うの!? あ、ありえない。こんなもの似合うわけがない。目は確か!?」
黙っていれば、私は目の前の『可憐な花柄の着物』を着ることになってしまう。阻止してくれるわ!
「渾身の力で叫ぶほど喜ばれては朧様も幸せでしょうね」
どうして微笑ましい顔で私を見るの!?
「絶対に違う! それと、私はこんなもの着たことがないから似合うわけがない」
「俺の見立てを疑うのか?」
「だからそういうっ――ど、どこから現れて!?」
あまりにもさり気なく口を挟まれ、驚くなと言う方が無理だ。妖なのだから瞬間的に姿を眩ませたり現したりするのもお手の物とは、なんて怖ろしいの。
「いただきます」
誰に言ったつもりもない。聞いていてほしいと思ったわけでもない。
一人での食事は慣れている。だから一人きりで取り残されるのも構わないのに、野菊という女性は居座るつもりのようで、私は無心を決め込み食事を続けた。
藤代はとっくに姿を消している。
「ごちそうさま」
そう告げれば見計らったように善が下げられる。当然のように給仕されたこともあり、私はつられるように「美味しかった」と口にしていた。
「もったいないお言葉です」
野菊は短く告げると部屋を出て行く。
同じ女性としても立ち居振る舞いが洗練されていると認めざるを得ない動きだ。しなやかで無駄がないと、戦いを基準にそんなことを考えた。
やがて藤代が戻ってくると、何故かその手には大量の荷物を抱えている。
「どうしたの?」
あまりにも量が多く不安定な有様だ。
「お見苦しいところを、失礼いたしました」
さすがに本人もきついのか余裕がないと見える。
「これらは全て椿様のものにございます」
「妖狐……その、朧から?」
また同じ問答をするつもりはないので訂正しておく。
「もちろんです。例えば、こちらにお召し変えされてはいかがでしょう」
黄色を深くしたような生地には白い花の模様。一言でまとめるなら『可憐な花柄の着物』を提示されている。
私にも物を『可愛い』と感じる心が残っていたのね。戦いに身を費やしてばかりの人間には久しい感覚――ではなくて。
「これを私に着ろと言うの!? あ、ありえない。こんなもの似合うわけがない。目は確か!?」
黙っていれば、私は目の前の『可憐な花柄の着物』を着ることになってしまう。阻止してくれるわ!
「渾身の力で叫ぶほど喜ばれては朧様も幸せでしょうね」
どうして微笑ましい顔で私を見るの!?
「絶対に違う! それと、私はこんなもの着たことがないから似合うわけがない」
「俺の見立てを疑うのか?」
「だからそういうっ――ど、どこから現れて!?」
あまりにもさり気なく口を挟まれ、驚くなと言う方が無理だ。妖なのだから瞬間的に姿を眩ませたり現したりするのもお手の物とは、なんて怖ろしいの。