妖しな嫁入り
「あなたはいずれ妖狐一族を率いるお方。失礼ながら、どこの誰とも知れぬ相手では血筋、教養、いずれをとっても釣り合うとは思えませんが」

「そこを何とかするのが君の役目だろう」

 向けられているのはお前ならできるだろうという挑発的な眼差しだ。それでいて深い信頼が込められているので性質が悪い。
 仕方がない。無理やりではありますが、話を逸らして痛いところを突いてみましょう。

「仮に、いくら知識を詰め込んだところで血筋の問題が解決するものではありません。何より半妖では、まともな世継も期待できませんね」

「それについては後々な」

 朧様にしては珍しいことに、はっきりとしない物言いだ。
 確かに後々解決する手段はある。なにも正妻に迎える必要もないのだ。仮にそれが嫌なら側室を娶れば問題はないことであり、朧様にもそれくらいの考えはあるのだろう。ならば、わたくしが進言することではない。

「では、ここからは先はわたくしの意見を述べさせていただきます」

「聞こう」

 そう、ここまでは妖狐一族に属する者の客観的な意見。
 ここから先はわたくしの言葉。朧様に仕える藤代としての言葉だ。

「朧様がどこの誰と恋愛されようと構いませんが、事情はしかと説明していただきたいものです」

 私的な意見となれば、なんとも飾り気のないものだ。朧様が真に幸福であれば良いと、至って単純なわたくしの行動原理だ。

「話せば小言が煩わしいだろう」

「小言が多くなる自覚があるのですか」

 無意識にもわたくしの口元は引きつっていた。なるほど、朧様の顔が面倒くさそうに歪んでいる。

「朧様。正しい報告が聞きたければ、わかりますね?」

 朧様は深く長いため息をついてから、重い口を開いた。

「俺を殺せなければ嫁になれと賭けをしている」

「なんですかその、どう聞いても物騒としか言いようのない賭けは。どこをどうしたら、いえ……いったい何をどうしたら、未来の奥方候補と甘いひと時でなく殺し合いが始まるのです? 理解しかねるのですが」

 想像以上にめんど――もとい、こじれた事態になっているようで、今度はわたくしが長いため息を吐く番になった。
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