妖しな嫁入り
 聞かされたのは闇夜の町で出会った妖狩りの娘の話。
 半分はこちら側――人の家系に生まれておきながら、生まれながらの半妖とは特異なものだ。とすれば血筋にも何らかの秘密はあるかもしれない。
 いかなる理由があろうとも、たとえ半分こちら側であろうとも、人の中で育てばそれはただの人。それが家族からは見放され妖を狩るためだけに利用されていたとは……まあ同情してやらなくもない境遇か。
 なんて特異、哀れな娘だろう。妖を狩るために利用されていたかと思えば、今度はその妖に魅入られるとは運のないことです。
 とはいえ朧様に仕えている身には関係のないことだ。

「あなたに仕えてから、それなりの時が経ったと自負していましたが……全くわかりません」

 最大の謎は朧様がたかが小娘相手に心を砕く理由だ。

 憐れんでいる?
 いや、優しい方ではあるが……

 遊んでいる?
 
 確かにからかったような言動が多くはあるが……

 まさか、本心から惚れている!?

 それこそ納得のいく理由にして、納得のいかない理由だ。

「彼女に何を求めているのです? 戯れなど、互いのためになりませんよ」

「……忠告だけは聞き入れておく。さて、そろそろ椿のことを話してくれないか?」

 朧様はここまで黙って話を聞き入れてくれた。であればわたくしもしかと現状を伝えねばなるまい。仕切り直しとばかりに居住まいを正す。

「まずは座学についてですが、読み書きは可能な様子。ですが教養については全く足りていない」

「だろうな」

「ご存じで?」

「戦う術しか必要なかったそうだ」

「なるほど。ですが記憶力は素晴らしい。加えて知識欲が深いのでしょう」

「頼もしいことだな」

「一度お教えしたことはすぐに吸収されます。これまで何も教えられずに育ってきた、というそのままの印象ですね。余計な先入観がない分、受け入れやすいのでしょう。瞬く間に自分のものとされてしまうので、このまま指導し続ければすぐに形になりましょう。本人に至っても勉学は嫌いではない様子。屈辱そうな顔を精一杯無表情で隠しながら積極的に質問されていますよ」

 それまで大人しく聞き入っていた朧様の表情が変わった。
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