妖しな嫁入り
そう言った朧は、これ以外に選択肢はないとばかりにさっさと金を積んでしまう。挙句、品を受け取りそのまま私の背後に回る。
「ちょっと!?」
朧の手は迷うことなく私の髪に触れていた。驚いて非難しようと顔をよじるが、男の力にかなわず悔しい。
視界の横で、選んだばかりの簪が揺れた。
「良く似合っている、椿」
朧が褒めれば、一連の様子を見守っていた店主が反応を示す。
「お嬢さん、椿さんというのかい? どうりで椿の花が良く似合うわけだ」
選んだのは赤い花を模ったもので、その言葉が差す意味はつまり。
髪にさされてはゆっくり拝むこともできず、少し残念な気持ちになった。先に教えてくれれば良かったのにとさえ思ってしまう。
「良い品だ、感謝する」
満足そうに朧が店主に礼を述べてる。それを聞いた店主は、すぐさま姿勢を正し頭を下げた。
「とんでもないことで! 私どもの方こそ気にかけていただき、感謝するばかりですよ!」
……ん?
はて、店主が朧に頭を下げている。驚きにつられて私も朧を見れば、屈むように彼の唇が耳へと近づいた。まるで内緒話のようにそっと囁かれたものは――
「彼は妖だ」
衝撃に、私は言葉を失った。
けれどいつまでも店内で不自然に固まっているわけにもいかない。言葉を失ったまま、私はふらふらと店の外に出る。
私の常識は完全に崩れ去った。
人のような妖と生活を共にしているだけでも驚愕なのに。妖が、人に混じって生活しているなんて……
軒先に身を置き茫然とすることしばらく。
「この店、というより、この町には妖が紛れて暮らしているんだ」
さらに追い打ちをかける朧がいた。顔を上げれば視界に映るのは人間ばかり。けれど、この中にも妖がいるかもしれないと言うのだ。
「驚いただろう」
つまり、これが朧の秘密にしていた話というわけで。
「ちょっと!?」
朧の手は迷うことなく私の髪に触れていた。驚いて非難しようと顔をよじるが、男の力にかなわず悔しい。
視界の横で、選んだばかりの簪が揺れた。
「良く似合っている、椿」
朧が褒めれば、一連の様子を見守っていた店主が反応を示す。
「お嬢さん、椿さんというのかい? どうりで椿の花が良く似合うわけだ」
選んだのは赤い花を模ったもので、その言葉が差す意味はつまり。
髪にさされてはゆっくり拝むこともできず、少し残念な気持ちになった。先に教えてくれれば良かったのにとさえ思ってしまう。
「良い品だ、感謝する」
満足そうに朧が店主に礼を述べてる。それを聞いた店主は、すぐさま姿勢を正し頭を下げた。
「とんでもないことで! 私どもの方こそ気にかけていただき、感謝するばかりですよ!」
……ん?
はて、店主が朧に頭を下げている。驚きにつられて私も朧を見れば、屈むように彼の唇が耳へと近づいた。まるで内緒話のようにそっと囁かれたものは――
「彼は妖だ」
衝撃に、私は言葉を失った。
けれどいつまでも店内で不自然に固まっているわけにもいかない。言葉を失ったまま、私はふらふらと店の外に出る。
私の常識は完全に崩れ去った。
人のような妖と生活を共にしているだけでも驚愕なのに。妖が、人に混じって生活しているなんて……
軒先に身を置き茫然とすることしばらく。
「この店、というより、この町には妖が紛れて暮らしているんだ」
さらに追い打ちをかける朧がいた。顔を上げれば視界に映るのは人間ばかり。けれど、この中にも妖がいるかもしれないと言うのだ。
「驚いただろう」
つまり、これが朧の秘密にしていた話というわけで。