妖しな嫁入り
こうなることを誰が予想しただろう。
初めて朧と食べる食事は、普通の食事だった。なんてことはない、会話をしていた流れの延長そのままに。
その後、冷えた体で風呂をもらい。部屋に戻れば同じく湯上りの朧が。そして宿の人間が布団を敷くとやってきた。慣れた手付きで布団を敷き始めた、それはいいのだが……どう見ても布団が一組しか見当たらない。
まさか妖と同じ寝具で寝ろと!?
主張を試みた結果。
衝立を間に挟み、壁際にぴったり添うように離して敷かれた二組の布団。困惑しながらも要望に答えてくれた宿の人間には深い感謝を。
私はといえば、部屋中に視線を巡らせ武器になりそうな物を探していた。さすがに就寝を共にするのは想定外すぎる。
そしてそれは自らの危機であると同時に絶好の好機。武器になりそうな物、唯一閃いたのが簪だった。
けれどこれは朧が贈ってくれたもので――
なんて馬鹿げた主張だろうと苦笑する。いずれ贈られた刀で朧を狩るくせに。
そうだ、これを武器にしよう。そうしよう、それしかない。決行は朧が寝入ってから。
早く眠れと朧に押し込められ、わかったと頷く。こちらにとっても願ったりだった。けれど布団には潜らず、壁に背を預け衝立越しに視線を向ける。もちろん眠るつもりはない。そんな私の抵抗を嘲笑うように朧はすんなり布団に入ったのだろう、そんな音が聞こえた。
明かりのない部屋、けれど不思議と見通しが効く。それは私が普通の人間ではないから。そうだとしたら朧にも言えることで、出会った時に感じた妖しく光る瞳が思い起こされた。
ただじっと、その時を待つ。
早くと急ぐ自分、待てと冷静を装う自分がせめぎ合う。
いつ寝入るのだろう。そもそも妖は眠るのだろうか。でもしっかり布団に入ったわけで――ひたすら衝立を越える機会を伺い続けた。
刀はない、あるのは心もとない簪だけ。それは初めて自分の意思で選んだと言えるもの。赤い花が目について、つい朧の誘いに頷いてしまっただけとはいえ……着物に感じた可愛いという感情とは少し違った。凛とした色合いを美しいと見惚れた。どこか朧の雰囲気に似ている気がした、なんて……気の迷いに違いない。
だから早く。これ以上、心を乱される前に早く!
初めて朧と食べる食事は、普通の食事だった。なんてことはない、会話をしていた流れの延長そのままに。
その後、冷えた体で風呂をもらい。部屋に戻れば同じく湯上りの朧が。そして宿の人間が布団を敷くとやってきた。慣れた手付きで布団を敷き始めた、それはいいのだが……どう見ても布団が一組しか見当たらない。
まさか妖と同じ寝具で寝ろと!?
主張を試みた結果。
衝立を間に挟み、壁際にぴったり添うように離して敷かれた二組の布団。困惑しながらも要望に答えてくれた宿の人間には深い感謝を。
私はといえば、部屋中に視線を巡らせ武器になりそうな物を探していた。さすがに就寝を共にするのは想定外すぎる。
そしてそれは自らの危機であると同時に絶好の好機。武器になりそうな物、唯一閃いたのが簪だった。
けれどこれは朧が贈ってくれたもので――
なんて馬鹿げた主張だろうと苦笑する。いずれ贈られた刀で朧を狩るくせに。
そうだ、これを武器にしよう。そうしよう、それしかない。決行は朧が寝入ってから。
早く眠れと朧に押し込められ、わかったと頷く。こちらにとっても願ったりだった。けれど布団には潜らず、壁に背を預け衝立越しに視線を向ける。もちろん眠るつもりはない。そんな私の抵抗を嘲笑うように朧はすんなり布団に入ったのだろう、そんな音が聞こえた。
明かりのない部屋、けれど不思議と見通しが効く。それは私が普通の人間ではないから。そうだとしたら朧にも言えることで、出会った時に感じた妖しく光る瞳が思い起こされた。
ただじっと、その時を待つ。
早くと急ぐ自分、待てと冷静を装う自分がせめぎ合う。
いつ寝入るのだろう。そもそも妖は眠るのだろうか。でもしっかり布団に入ったわけで――ひたすら衝立を越える機会を伺い続けた。
刀はない、あるのは心もとない簪だけ。それは初めて自分の意思で選んだと言えるもの。赤い花が目について、つい朧の誘いに頷いてしまっただけとはいえ……着物に感じた可愛いという感情とは少し違った。凛とした色合いを美しいと見惚れた。どこか朧の雰囲気に似ている気がした、なんて……気の迷いに違いない。
だから早く。これ以上、心を乱される前に早く!