妖しな嫁入り
夜帰り(藤代)
 その日は重苦しい雲に覆われた空に湿った空気が立ちこめ、いかにも雨が降る前兆、降りだすのも時間の問題という生憎の空模様。そんな天候にもかかわらず、だからこそ外出すると朧様は言う。
 無論今日の講義は中止だと宣言され、わたくしの眉間に皺が寄った。完璧な計画を立てている身としては不服である。けれど朧様に仕え慕う身としては初めての逢瀬を応援したい気持ちも芽生えていた。

 そう、初めての……。

 仕方ありませんねと、しぶしぶ了承を告げる。それが予想通りの反応だったのか、あるいは逢瀬が楽しみなのか正確には判断しかねるも朧様は上機嫌だ。
 せいぜい誘いを拒否されないことを祈りながら椿様の元へと向かう。駄々をこねられ出発が遅れ天気が回復してはいけない。だからこそ、のんきに考える暇は与えずに。わたくしは予定だけ告げると野菊に支度を任せ退散するに限る。案の定、去り際の椿様は追いすがってきそうな勢いで、阻止した野菊は実に良い仕事をしたと思う。
 良かったですね、朧様。どうにか外出は出来そうですよ、外出は……。本当に大丈夫だろうかと、朧様からの命令を思い返す。

 早急に傘を処分しなくては!

 処分との命令を受けているが、朧様の部屋に非難させておけば問題ないだろう。なにせ椿様が絶対に訪れそうにない場所ですからね。

 早々に降りだした雨は夜まで続き、時折強くなる雨脚に、わざわざ雨の日を選び外出を決めた主たちを想う。

 わたくしの予想では、お前と同じ傘で歩くくらいなら濡れる! という椿様の行動により、どちらかがずぶ濡れに。もしくは傘が大破し、お互いずぶ濡れで早々に帰宅されるかと思っていた。それくらい家から出るまでやきもきさせられた。いっそ「早く行け」と言ってしまいたかった。
 だからこそ有能なわたくしは、すぐに出迎えられるよう用意していた。結果として、その布が活躍することはなかったが。

 それどころか……まさかの夜帰り!

 朝帰りを通り越して夜の帰宅。つまりお二人は共に外出し宿で一夜をあかし、あまつ朝を過ぎ、昼さえも通り過ぎ、日が沈んでからゆるりと夜の帰宅であった。
 尤も日が沈んでからの帰宅は椿様の事情を鑑みれば仕方のないことか。昨日の雨が嘘のような快晴では昼間から外を歩けはしないだろう。
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