妖しな嫁入り
この夜帰り事件は瞬く間に屋敷中に広まった。「朧様、良かったですね」などと、わたくしを初め微笑ましい眼差しを向けられる主は屋敷の者に慕われている。
そう、二人の間には何かがあった。夜帰りの間に、確実に進展があったのだ。
あれはわたくしがいつものように椿様に伺いを立てた時のこと――
「椿様。差し出がましいことを本日もお伺いして心苦しいのですが……」
お二人は別々の部屋で別々に食事を取られている。もちろん椿様が拒否されると言う理由で。
本日も形ながらも主のために共に食事はと伺っていたところだ。すると……
「構わない」
そうですよね――
「はい? 今、何と?」
空耳だろうか。
「だから、朧と一緒でも構わないと言った」
え?
あの椿様が!?
朧様との食事を了承された!?
この事件も瞬く間に屋敷中へと広まった。動揺広がる中、無論わたくしも同じだが。気が変わらないうちに早急に食事の手配をしてしまおうと先を急ぐ。
こういう結果を人の世では『雨降って地固まる』と表現するのだろうか。随分と微笑ましいことを考えながら、わたくしは婚姻の日も近いだろうかと想像し――
「調子に乗らないで!」
甘い未来予想を打ち消すような椿様の怒声。静寂を打ち破る椿様の叫びに肩を落としながら、また密かに主を応援する。
固まるのはまだ早かったかもしれない。だがせめて月見酒くらいは、いつか彼女を伴う日が近ければと思う。少しさびしい気もするが、いつかその日が来ればいいと願った。
出会ったその日に比べたら共に食事を取るなんて、それだけで大きな進展だ。涙ぐみそうになるわたくしは目尻に光るそれを拭い支度へと向かう。
……のだが。
「大人しく刺さって」
物騒な発言と共に物騒な……とはいえ、それは主からの贈り物。
夜帰り以降の椿様は、より過激になられたように思う。とにかく顔を合わせれば刀を向けていた。事情は聞き及んでいるとはいえ、以前はここまで頻繁に椿様も襲撃されていなかったのだが。
そして朧様はというと。
「熱心なことだ」
案の定、変わらない態度を貫いている。優雅に刃を受け面白そうに口元を歪める始末。お二人の関係はさらに難解さを増していた。
朧様。あなたがそんな態度でいらっしゃるから椿様の琴線に障るのでは?
今宵、月見酒のおりにでも進言させていただくつもりです。差し出がましいとは存じながら、以上藤代の考察でした。
そう、二人の間には何かがあった。夜帰りの間に、確実に進展があったのだ。
あれはわたくしがいつものように椿様に伺いを立てた時のこと――
「椿様。差し出がましいことを本日もお伺いして心苦しいのですが……」
お二人は別々の部屋で別々に食事を取られている。もちろん椿様が拒否されると言う理由で。
本日も形ながらも主のために共に食事はと伺っていたところだ。すると……
「構わない」
そうですよね――
「はい? 今、何と?」
空耳だろうか。
「だから、朧と一緒でも構わないと言った」
え?
あの椿様が!?
朧様との食事を了承された!?
この事件も瞬く間に屋敷中へと広まった。動揺広がる中、無論わたくしも同じだが。気が変わらないうちに早急に食事の手配をしてしまおうと先を急ぐ。
こういう結果を人の世では『雨降って地固まる』と表現するのだろうか。随分と微笑ましいことを考えながら、わたくしは婚姻の日も近いだろうかと想像し――
「調子に乗らないで!」
甘い未来予想を打ち消すような椿様の怒声。静寂を打ち破る椿様の叫びに肩を落としながら、また密かに主を応援する。
固まるのはまだ早かったかもしれない。だがせめて月見酒くらいは、いつか彼女を伴う日が近ければと思う。少しさびしい気もするが、いつかその日が来ればいいと願った。
出会ったその日に比べたら共に食事を取るなんて、それだけで大きな進展だ。涙ぐみそうになるわたくしは目尻に光るそれを拭い支度へと向かう。
……のだが。
「大人しく刺さって」
物騒な発言と共に物騒な……とはいえ、それは主からの贈り物。
夜帰り以降の椿様は、より過激になられたように思う。とにかく顔を合わせれば刀を向けていた。事情は聞き及んでいるとはいえ、以前はここまで頻繁に椿様も襲撃されていなかったのだが。
そして朧様はというと。
「熱心なことだ」
案の定、変わらない態度を貫いている。優雅に刃を受け面白そうに口元を歪める始末。お二人の関係はさらに難解さを増していた。
朧様。あなたがそんな態度でいらっしゃるから椿様の琴線に障るのでは?
今宵、月見酒のおりにでも進言させていただくつもりです。差し出がましいとは存じながら、以上藤代の考察でした。