妖しな嫁入り
「妖弧一族の現当主、女ながら怖ろしい女狐だぞ。君には本当に申し訳ないことをしたと思っている」

 私が襲われたことを言っているのだ。

「あれは、俺が自分の決めた相手と婚姻を結ぶことを望んでいる」

「だから私が邪魔なのね」

「君は随分と簡単に現状を受け入れてくれるな」

 害されて殺されかけたことを指すなら、私にとっては何の疑問にもならなかった。

「私は自分が妖に受け入れられていると思ってはいない。普通は邪魔に思う、それが当然。だから命を狙われてもおかしくないと、常に思っていた」

「その割には、皆と仲良くやっているようだが?」

「この屋敷の妖は少し……違う。だいぶおかしい」

 そう、おかしいのだ。
 朧の側近にして使用人を統括しているのが藤代ならば、彼の下にはさらに細かく役職ごとの統括が置かれている。その中で女方の統括を努めているのが野菊であり、妖たちの信頼も厚い。そんな彼女が全力で私を庇い認めるような発言をした。さらに先日の宴で難なく給仕をこなしたことから、妖たちが私を見る目に変化があった。
 これまでは、やはり遠巻きに怖ろしいと思われていたのだろう。なにせ屋敷の主に顔を合わせる度、攻撃を仕掛ける女だ。ところが距離を保ち頭を下げるだけだった妖たちが挨拶だけではなく話しかけてくる。天気の話から朝餉の献立、外では何の花が咲いただの……なんだか気安い!!
 どうしてこうなったのか疑問でならなかった。
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