妖しな嫁入り
 次々と、会話慣れしていない口から洩れるのは本音ばかりだった。妖弧相手に馬鹿正直に事情を話すなんて――そう思うのに。それなのに、私の口は勝手に動き続けている。

「門限か?」

「そう、なのかもしれない」

 望月家の汚点が世間に知れ渡らないよう、望月家の保身のために設けられたもの。

「初めて言いつけを破ってしまった。これで私は死んだことになった」

「どういう意味だ?」

 私は布団から出ると無言で畳みの上に立つ。その拍子に薄い夜着に着替えさせられていたことに気付き、傍に刀が見当たらないことも確認する。その結果、反撃する隙を探るも俄かには難しいという判断を下した。

「見ればわかるでしょう、私には影がない」

 私の足元を見つめる妖弧にすら影があるというのに皮肉なものだ。

「日が昇れば外を歩けない。どこへも行けない。こんな人間と繋がりがあると知られたら、その家はどうなると思う?」

 一族ぐるみで異端扱い。望月家が最も恐れている事態だろう。
 だから私は夜しか活動が許されていない。朝になれば戻ってはいけない。汚らわしい存在が望月の家系から生まれたなどと知られたくないのだ。
 影がないことを自分から他人に明かすのは初めてだ。どうせ妖相手に不気味がられたところで何の痛手もないと自棄になっていた。

「言いつけを破った、私は悪い人間。でも、この胸には罪悪感が存在していない。何も感じていないなんて、罪悪感すら生れない私は……」

 ああ、やっとわかった。

「私は浅ましい?」

 どうして嘘を吐けなかったのか、形だけでも懺悔していたかったのね。言いつけを破ったことに対して後悔しているフリをして、反省していると見せかけたかった。こんな妖狐相手に懺悔したところで意味はないのに、口にすることで自分は良い人間なのだと思っていたかった。
 そんな私の心情を否定するように妖弧は言う。

「当然だろう」

 確かに自分で言ったことではあるけれど。お前が言うなと非難を込めて睨むんでしまうのは仕方のないことだ。原因を作りだした張本人のくせに!

「自分で言ったことではあるけれど、お前に言われるとはらわた煮えくり返る」

「違うさ。そう否定的に捉えるな。望まぬことを強いられて喜ぶわけがないだろうと言っただけだ」

「望んでいない……それは、私が?」
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