妖しな嫁入り
「お前という存在に価値を与えてほしいと? ならばその方法、お前はよく理解しているだろう?」

 そう、私がこの身に価値を示したいのなら。人でいたいのなら、その方法は一つだけ。

 まるで倉庫に鍵をするように、唯一の入り口には錠がかけられた。
 鍵をかけられたのは久しぶりだ。昔、もっと小さかった頃はよく閉じ込められていたように思う。さらに反抗すれば暗い地下牢に閉じ込められた。

「朧……」

 朧は地下牢に囚われているはずだ。私が捕まっているから抵抗しないと、当主様は言っていた。どうしてと疑問が湧き上がり……

 私はその答えを知っている。
 自分の命を狙う女を、朧は必要としてくれた。こんな事態に巻き込まれても望んでくれている。

「馬鹿な妖。こんな私でもいいなんて」

 当主様は今の私に価値がないという。必要とされたければ朧を殺すしかない。ここに居れば、いずれ私は朧を殺さなければならない。でも私には……

「私にはできない」

 朧はいつも私を助けてくれた。一人孤独だった時も、妖に襲われた時も。
 感謝している。
 私のこれは朧と同じ気持ち?
 助けてくれたからなんて、だから好きなんて都合が良過ぎる。でも、だとしたら……
 例えば藤代や野菊に助けられたとして。まず感謝を告げる。
 でも朧に助けられた時はそれだけじゃなくて。悔しくて悔しくて、でも……

「それでいて、やっぱり嬉しいの」

 私にとって朧は、藤代や野菊とは違う存在。きっと代わりはいない、特別な妖(ひと)なんだと思う。

「ありがとう。こんな私を必要としてくれて」

 ただただ嬉しかった。だから今度は私が助けに行く。私が巻きこんでしまった。たとえ始まりがどうであろうと望月家がしたことは私の責任だ。
 朧はいつも手を差し伸べてくれた。でも今回は、それじゃだめ。待ってちゃいけない。自分の意思で、朧がくれた情に報いたければ、私が行かなければならない。

 唯一の出入り口である扉は閉ざされている。念のため手を伸ばせば強い力に弾かれた。

「いっ!」

 触れる寸前、電撃が走ったように拒絶される。掌を見れば赤くなっていた。

「結界、そうまでして閉じ込めるの?」

 実際逃げようとしているわけだが、そこまで信頼されていないというのも悲しい。きっと朧がいなければ地下牢に繋がれていたのは私なのだろう。
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