【恋愛短編】同伴出勤の女
【同伴出勤の女】
時は8月半ば頃のことであった。
天気予報によると、高知県の8月の降雨量は平年の4倍近い雨を観測したと言う情報があったので、また梅雨の季節に戻っていた。
あれは、8月の第3金曜日の雨の降る夜のことであった。
アタシ・みやび(27歳)は、傘をさして高知市菜園場町(さえんばちょう)通りにある勤務先のナイトクラブへ向かっていた。
菜園場町通りの商店街のゲートを入って、500メートルのところにある焼鳥屋さんの前を通った時のことであった。
アタシは、店の前で肩を落としてさみしそうにしているカレ・ようすけ(29歳)と出会った。
アタシは、さみしそうにしているカレのそばに行って、優しく声をかけた。
「ねえ…どうしたのよ…そんなところに座り込んでしまって…帰る家はあるの?」
「帰るところぉ~…ねえよ…」
「帰るところがないのね…ねえ、アタシと一緒にどこかへ行かない?」
カレをさそったアタシは、カレと同伴で勤務先のナイトクラブに行った。
同伴出勤とは、ホステスさんと店のなじみの男性客と一緒に勤務先のスナックやナイトクラブに出勤をすることを言う。
店に出勤したアタシは、いつものようにお店の仕事をしていた。
カレは、60分の間店の女のコたちと無邪気におしゃべりをしていた。
カレは遊びなれている人だと、アタシは思っていた。
それから4時間後のことであった。
夜のお勤めを終えたアタシは、桟橋通り1丁目にある分譲マンションのお部屋に帰ろうとしていた。
雨は、さらに大きな音を立ててドザーッと降っていた。
日本列島に接近している台風の影響で、台風から流れてくる湿った空気が次々と四国地方に流れ込んでいたので、雨の降り方が激しかった。
裏口から出たアタシは、かさをさして歩いて帰ろうとしていたが、雨の降り方がひどかったのでタクシーで帰ることにした。
その時であった。
アタシと同伴で店に来ていたカレがいたのでビックリした。
「やだ、一体どうしたのよ!?帰る家はあるの!?ないの!?」
「帰る家なんかねえよ…」
「ないって…あんたはどこから来たのよ!?」
「岡山。」
「岡山…それじゃあ、あんたは特急列車か高速バスでここまで来たの!?」
「どっちだっていいだろ…ほっといてくれよ!!」
「ほっといてくれよって言うけど…」
ヨレヨレの体で立ち上がったカレは、歩いて行こうとしていたが、ぐでんぐでんに酔っていたのでまっすぐにあるけない…
「ちょっとあんた…あんたもしかして、ぐでんぐでんになるまで、町内の居酒屋さんをはしごしていたのかしら!?もう、しょうがないわね!!」
カレの肩を抱き抱えたアタシは、激しい雨の降る中を歩いて、桟橋通り1丁目にある分譲マンションへ帰った。
アタシの部屋にて…
アタシの部屋に着いた後、カレは大きなイビキをかいて寝ていた。
アタシは、眠っているカレを見つめながらこう思っていた。
カレは…
どうして高知までやって来たのかしら…
一体、カレの周囲で何があったのかしら…
次の朝のことであった。
前夜から降り続いた雨は、明け方頃にやんだ。
灰色の雲のすき間から朝陽(あさひ)が射し込んでいた。
ラジオの朝のニュースで、大雨で不通になっていたJR土讃線が運行を再開して、岡山からの特急の乗り入れが再開されたと伝えていた。
アタシは、カレを連れて高知駅まで行った。
ところ変わって、駅の中にあるパン屋さんのカフェテリアにて…
アタシとカレは、焼きサンドのつなのコーヒーセットを頼んで朝ごはんを食べていた。
ふたりは、朝ごはんを食べながらこんな会話をしていた。
「ねえあんた…あんたは、好きなカノジョはいるの?」
「好きなカノジョはいるよ…だけど…うまくはいっていない…」
「うまくいっていないって…どうしてなのよ?」
「どうしてって…」
カレは、コーヒーをひとくちのんでからアタシにこう言うた。
「3ヶ月前に、つきあっていたカノジョにプロポーズして…カノジョの両親にあいさつを済ませて結婚の許しをいただいた…住むところは、小さいけれどアパート暮らしを始めたけど…婚姻届けを出さないまま…先伸ばしの状態が続いている…」
「どうして婚姻届けを出すことを先伸ばしにしているのよ?」
「どうしてって…仕事が忙しい…社長から任された仕事が増えたから時間がない…」
「うそばかり言われんよ…どうしてあんたは、カノジョに見栄すいたウソをつき通しているのよ!?あんたはいいかげんな男だから、肝心なことをコロッと忘れてしまったから、カノジョと気まずくなっているのじゃないの?」
「それ、どういうことなのだよ…」
「あんた、本音はカノジョと結婚をしたくなかったのじゃないの?」
「どうして分かるのだよ?」
「あんたの顔が結婚に向いていない顔になっているわよ!!」
アタシの言葉に対して、カレは『知らねーよ。』と開き直った口調でアタシに言うた。
どうしてそうやって開き直るのかしらねぇ…
アタシがこう思っていた時に、カレはアタシに言うた。
「オレ…高校の時に苦い思い出があったから…結婚に向かないのだよ…」
「ウソでしょ。」
「うそじゃないよ、本当のことだよ…高校の時に付き合っていたカノジョがいた…同じ大学に行こうねと言って…カノジョと同じ大学を目指して…受験勉強をした…けど、大学受験に失敗した…カノジョだけが受かったので、オレは1年浪人して、カノジョが入学をした大学を再受験しようとがんばっていた…けど、オヤジが職場で上司に大声で怒鳴って職場で暴れて会社にめいわくをかけて職場放棄をしたあげくに…プータローになったとオフクロから言われて泣く泣く大学をあきらめた…同時にカノジョのこともあきらめた…今のカノジョは…知人に結婚相手の世話をしてほしいとお願いをして…岡山県の結婚支援センターに行って…個別のお見合いを申し込んで…それで知り合った…けれど…気持ちが…体が結婚をしたいと言う方向に向こうとしないのだよ…」
カレはアタシに、今の自分の気持ちを洗いざらいに話した。
カレの話を聞いたアタシは『気持ちが結婚に向かないのね。』と言うてから、先に買った菓子パン10個が入っている袋を差し出してから、カレに言うた。
「あんたね、女々しいわよ!!あんたがそんな弱い気持ちでいたら、カノジョやお世話をしてくださった人に申しわけないでしょ!!菓子パン10個を買ったから、あんたに渡しておくわよ。岡山へ帰ったら菓子パンを持って、カノジョのところへ会いに行きなさい!!」
アタシの言葉に対して、カレは『分かったよ。』と気だるい声で返事をしてから、菓子パン10個を受け取った。
その後、カレは運行が再開された特急列車に乗って岡山へ帰ったと想う。
カレを見送ったアタシは、高知駅から路面電車に乗って桟橋通り1丁目の分譲マンションの部屋に帰った。
部屋に帰ったアタシは、昼寝をしていた。
それからまた数日後のことであった。
アタシは、鏡川の河川敷の公園に行った。
ひとりでベンチに座って、メンソール(たばこ)をくゆらせながらこんなことを思っていた。
カレは、岡山にきちんと帰ったのかしら…
きちんとカノジョに会って、話ができたのかしら…
そんなことばかりを思っていた時であった。
アタシのいるところから300メートル先に岡山へ帰ったはずのカレがいたので、アタシはビックリした。
えっ…
どういうわけなのよ…
岡山に帰って、カノジョに会ったのじゃないの?
ゼンゼン話が違うわよ…
アタシは、300メートル先にいるカレを呼んだ。
「ちょいとあんた!!」
「わっ…」
カレは、アタシのもとへやってくるなりこう言うた。
「ビックリするじゃねえか!!」
「ビックリしたのはアタシの方よ!!あんた、岡山へ帰っていたのじゃなかったの!?」
「はぁ?」
「はぁ?じゃないでしょうがあんたは!!あんた、どうして岡山へ帰らなかったの!?もしかして…帰るのがイヤになったから、どこかでウロウロしていたと言うわけじゃないでしょうね!?」
アタシの問いに対して、カレは『その通りだよ。』とあっさりとした口調で言うた。
アタシはムッとした表情でカレに言うた。
「『その通りだよ…』じゃないでしょ!!あんたもしかして、カノジョのことがイヤだからここまで逃げてきたのかしら!?」
「うるせーな!!さっきからあんたあんたってオドレは言うけど!!オレの名前はようすけと言うのだよ!!名前を覚えろよ!!」
「そういうようすけこそ、アタシのことをオドレと言うたわね!!アタシの名前はみやびよ!!ようすけこそ、アタシの名前を覚えなさいよ!!」
「なんだと!?」
ふたりは、しばらくの間口げんかをした。
ひと間隔を空けてから、アタシはカレにこう言うた。
「それよりもあんた!!」
「何だよ!!名前で言えよ!!」
「うるさいわね!!アタシの話を聞きなさいよ!!あんた、いつになったらカノジョと真剣に向き合うのかしら!?あんたはカノジョを本気で愛していないのかしら!?」
「愛しているよ…カノジョのことは本気で愛しているよ…」
「ムカつくわね!!アタシはあんたのイクジナシにムカついているのよ!!あんた、本当のことを言うと、カノジョの親きょうだいからあんたとカノジョの結婚を反対されているのじゃないの!?」
「反対されていないけれど……反対されていると思うから…こわいのだよ…」
あ~あ…
本当にイクジナシね…
って言うか…
最初から…
お嫁さんが来てもらえない態度になっているから…
結婚生活は無理だと想う…
こりゃお手上げね…
アタシはこう想いながらも、カレに聞いてみた。
「ねえようすけ。」
「何だよ?」
「あんたさ…もしかしたら…本気の恋を…したことがないのかしら?」
「どちらかと言うと…そうかもしれない。」
「やっぱりね…だったら、アタシが教えてあげようか?」
「教えるって、何をだよ?」
「あんたが付き合っているカノジョとマンネリとならないようにする方法よ。」
カレに言うたアタシは、吸いかけのたばこを地面にポトッと落としてスニーカーのかかとで火を消して、ケータイの灰皿にすいがらを入れた。
アタシの言葉に対して、カレは『お願いします。』と言うたので、早速アタシはカレとデートした。
アタシとカレは、帯屋町商店街のアーケード通りから大丸デパートまで手をつないで歩いた。
この日は、大丸デパートでショッピングデートを楽しんだ。
オシャレなブティックやアクセサリーの店などに行って、たくさん買い物を楽しんだり、オシャレなカフェに行って、お茶をのんだりして、ふたりきりの時間を楽しんでいた。
それから2時間後の夕方5時半頃のことであった。
ところ変わって、はりまや橋の近くの公園にて…
ふたりは、ベンチに座ってお話しをしていた。
「みやび。」
「なあに、ようすけ。」
「今日のデート、とても楽しかったよ。ありがとう。」
「よかったわね…」
アタシがようすけに言うたあと、ようすけはアタシにこう言うた。
「あのさ…オレ…」
「なあに?」
「いや…何でもない。」
「何なのよぉ…いいかけたことはきちんと言いなさいよ!!」
「何でもないさ。」
「変なの。」
カレは、ひと間隔をあけてからアタシにこう言うた。
「あのさ…オレ…みやびのことが…好きになっちゃった…」
「えっ?何アホなことを言うているのよ?ねぼけたことを言わないで!!」
「ねぼけてなんかいない…オレは…本気で…みやびにほれている…オレ、岡山には帰らない…」
「岡山に帰らないって…ソレって本気で言うているのかしら?」
カレは急に立ち上がった後、アタシに一緒に暮らしたいと申し出た。
「ようすけ…」
「オレ…みやびのことが好きなのだよ…大好きなのだよ…」
カレの言葉を聞いたアタシは、知らないうちに乳房(むね)の奥がジーンと熱くなっていた。
「ようすけ…」
「オレと…結婚をしてくれ…」
カレの言葉を聞いたアタシは、つい『一緒に暮らしましょう。』と言うてしまった。
そして、アタシとカレは同棲生活を始めた。
ふたりがうまく行くかどうかについては、何かと前途多難であった。
ところ変わって、アタシとカレが暮らしている分譲マンションの部屋にて…
ふたりの暮らしは、こんなふうになっていた。
カレは、日雇いでもいいから仕事を探してくると言うて仕事を探しに行った。
アタシが夜のお勤めに行ってる間は、カレが部屋にいて一晩中留守番をしていた。
アタシが朝方帰ってきた時には、カレが部屋をきれいに掃除をしていたので何かと助かっていた。
アタシは、カレがきちんとした仕事が見つかるまでがんばって行こうと言い聞かせて、日々の暮らしを送っていた。
アタシも、本当の恋をしたことがなかったので、知らないうちにカレのことを好きになっていた。
うれしい…
この幸せが、長く続くように…
1日でも長く続くように…
しかし、同棲生活は2週間で早々とリタイアをした。
同棲生活を始めてから15日目のことであった。
アタシが勤めているナイトクラブのホステスさんから『チーママから聞いた話だけど、これ知っているかしら。』とアタシに言うてから、1枚の紙を手渡した。
ホステスさんから紙を受けとったアタシは、書かれている内容を見た。
受け取った紙は、岡山県警からの捜索願いの情報であった。
捜索願いが出ていたのは、こともあろうにようすけだった。
紙には、ようすけの顔写真と家出をした日時から家出をした時の服装までこまごまと書かれていた。
ビックリしたアタシは、桟橋通り1丁目の分譲マンションの部屋へ帰ることにした。
アタシがマンションに帰ってきた時であったが、部屋の中でえげつない声が聞こえていたので、アタシの怒りが頂点に達した。
アタシは、意を決して部屋の中へ入って行った。
この時、アタシが使っている大きめのベッドの上にカレと見知らぬ女が生まれたままの姿でイチャイチャしていた。
しかも、アタシ以外の女の泣き声がとなりの部屋にまで響いていた。
そんなことはおかまいなしに、ふたりがイチャイチャしていた。
ムカッと来たアタシは、戸をバーンと開けた。
アタシが突然ベッドルームに入って来たので、カレとアタシ以外の女はビックリした。
「コラー!!ようすけ!!あんたはアタシの目を盗んで人のベッドでアタシ以外の女とイチャイチャしていたわね!!」
「違うよ、誤解だよ…オレは、カノジョが…気分が悪いというていたから…」
「見苦しいいいわけなんか聞きたくないわよ!!」
(バシッ!!バシッ!!バシッ!!バシッ!!)
アタシは、カレに往復ビンタを喰らわせた後に店に電話した。
カレは、それから30分後に所轄の警察署に保護された。
それからまた10日後のことであった。
カレ・ようすけと別れたアタシは桟橋通り1丁目の分譲マンションを売却した後、菜園場通りにあるマンスリーアパートに引っ越した。
あとになって分かったけど、ようすけはケーサツに保護された後に岡山県の結婚支援センターをナンパ目的で利用していたことが明るみになったので、複数の女性とトラブって大問題になった。
ようすけと別れたアタシは、新しくできたカレとつき合っていた。
よく考えてみたら…
アタシは、本気の恋ができない女です。
【おしまい】
天気予報によると、高知県の8月の降雨量は平年の4倍近い雨を観測したと言う情報があったので、また梅雨の季節に戻っていた。
あれは、8月の第3金曜日の雨の降る夜のことであった。
アタシ・みやび(27歳)は、傘をさして高知市菜園場町(さえんばちょう)通りにある勤務先のナイトクラブへ向かっていた。
菜園場町通りの商店街のゲートを入って、500メートルのところにある焼鳥屋さんの前を通った時のことであった。
アタシは、店の前で肩を落としてさみしそうにしているカレ・ようすけ(29歳)と出会った。
アタシは、さみしそうにしているカレのそばに行って、優しく声をかけた。
「ねえ…どうしたのよ…そんなところに座り込んでしまって…帰る家はあるの?」
「帰るところぉ~…ねえよ…」
「帰るところがないのね…ねえ、アタシと一緒にどこかへ行かない?」
カレをさそったアタシは、カレと同伴で勤務先のナイトクラブに行った。
同伴出勤とは、ホステスさんと店のなじみの男性客と一緒に勤務先のスナックやナイトクラブに出勤をすることを言う。
店に出勤したアタシは、いつものようにお店の仕事をしていた。
カレは、60分の間店の女のコたちと無邪気におしゃべりをしていた。
カレは遊びなれている人だと、アタシは思っていた。
それから4時間後のことであった。
夜のお勤めを終えたアタシは、桟橋通り1丁目にある分譲マンションのお部屋に帰ろうとしていた。
雨は、さらに大きな音を立ててドザーッと降っていた。
日本列島に接近している台風の影響で、台風から流れてくる湿った空気が次々と四国地方に流れ込んでいたので、雨の降り方が激しかった。
裏口から出たアタシは、かさをさして歩いて帰ろうとしていたが、雨の降り方がひどかったのでタクシーで帰ることにした。
その時であった。
アタシと同伴で店に来ていたカレがいたのでビックリした。
「やだ、一体どうしたのよ!?帰る家はあるの!?ないの!?」
「帰る家なんかねえよ…」
「ないって…あんたはどこから来たのよ!?」
「岡山。」
「岡山…それじゃあ、あんたは特急列車か高速バスでここまで来たの!?」
「どっちだっていいだろ…ほっといてくれよ!!」
「ほっといてくれよって言うけど…」
ヨレヨレの体で立ち上がったカレは、歩いて行こうとしていたが、ぐでんぐでんに酔っていたのでまっすぐにあるけない…
「ちょっとあんた…あんたもしかして、ぐでんぐでんになるまで、町内の居酒屋さんをはしごしていたのかしら!?もう、しょうがないわね!!」
カレの肩を抱き抱えたアタシは、激しい雨の降る中を歩いて、桟橋通り1丁目にある分譲マンションへ帰った。
アタシの部屋にて…
アタシの部屋に着いた後、カレは大きなイビキをかいて寝ていた。
アタシは、眠っているカレを見つめながらこう思っていた。
カレは…
どうして高知までやって来たのかしら…
一体、カレの周囲で何があったのかしら…
次の朝のことであった。
前夜から降り続いた雨は、明け方頃にやんだ。
灰色の雲のすき間から朝陽(あさひ)が射し込んでいた。
ラジオの朝のニュースで、大雨で不通になっていたJR土讃線が運行を再開して、岡山からの特急の乗り入れが再開されたと伝えていた。
アタシは、カレを連れて高知駅まで行った。
ところ変わって、駅の中にあるパン屋さんのカフェテリアにて…
アタシとカレは、焼きサンドのつなのコーヒーセットを頼んで朝ごはんを食べていた。
ふたりは、朝ごはんを食べながらこんな会話をしていた。
「ねえあんた…あんたは、好きなカノジョはいるの?」
「好きなカノジョはいるよ…だけど…うまくはいっていない…」
「うまくいっていないって…どうしてなのよ?」
「どうしてって…」
カレは、コーヒーをひとくちのんでからアタシにこう言うた。
「3ヶ月前に、つきあっていたカノジョにプロポーズして…カノジョの両親にあいさつを済ませて結婚の許しをいただいた…住むところは、小さいけれどアパート暮らしを始めたけど…婚姻届けを出さないまま…先伸ばしの状態が続いている…」
「どうして婚姻届けを出すことを先伸ばしにしているのよ?」
「どうしてって…仕事が忙しい…社長から任された仕事が増えたから時間がない…」
「うそばかり言われんよ…どうしてあんたは、カノジョに見栄すいたウソをつき通しているのよ!?あんたはいいかげんな男だから、肝心なことをコロッと忘れてしまったから、カノジョと気まずくなっているのじゃないの?」
「それ、どういうことなのだよ…」
「あんた、本音はカノジョと結婚をしたくなかったのじゃないの?」
「どうして分かるのだよ?」
「あんたの顔が結婚に向いていない顔になっているわよ!!」
アタシの言葉に対して、カレは『知らねーよ。』と開き直った口調でアタシに言うた。
どうしてそうやって開き直るのかしらねぇ…
アタシがこう思っていた時に、カレはアタシに言うた。
「オレ…高校の時に苦い思い出があったから…結婚に向かないのだよ…」
「ウソでしょ。」
「うそじゃないよ、本当のことだよ…高校の時に付き合っていたカノジョがいた…同じ大学に行こうねと言って…カノジョと同じ大学を目指して…受験勉強をした…けど、大学受験に失敗した…カノジョだけが受かったので、オレは1年浪人して、カノジョが入学をした大学を再受験しようとがんばっていた…けど、オヤジが職場で上司に大声で怒鳴って職場で暴れて会社にめいわくをかけて職場放棄をしたあげくに…プータローになったとオフクロから言われて泣く泣く大学をあきらめた…同時にカノジョのこともあきらめた…今のカノジョは…知人に結婚相手の世話をしてほしいとお願いをして…岡山県の結婚支援センターに行って…個別のお見合いを申し込んで…それで知り合った…けれど…気持ちが…体が結婚をしたいと言う方向に向こうとしないのだよ…」
カレはアタシに、今の自分の気持ちを洗いざらいに話した。
カレの話を聞いたアタシは『気持ちが結婚に向かないのね。』と言うてから、先に買った菓子パン10個が入っている袋を差し出してから、カレに言うた。
「あんたね、女々しいわよ!!あんたがそんな弱い気持ちでいたら、カノジョやお世話をしてくださった人に申しわけないでしょ!!菓子パン10個を買ったから、あんたに渡しておくわよ。岡山へ帰ったら菓子パンを持って、カノジョのところへ会いに行きなさい!!」
アタシの言葉に対して、カレは『分かったよ。』と気だるい声で返事をしてから、菓子パン10個を受け取った。
その後、カレは運行が再開された特急列車に乗って岡山へ帰ったと想う。
カレを見送ったアタシは、高知駅から路面電車に乗って桟橋通り1丁目の分譲マンションの部屋に帰った。
部屋に帰ったアタシは、昼寝をしていた。
それからまた数日後のことであった。
アタシは、鏡川の河川敷の公園に行った。
ひとりでベンチに座って、メンソール(たばこ)をくゆらせながらこんなことを思っていた。
カレは、岡山にきちんと帰ったのかしら…
きちんとカノジョに会って、話ができたのかしら…
そんなことばかりを思っていた時であった。
アタシのいるところから300メートル先に岡山へ帰ったはずのカレがいたので、アタシはビックリした。
えっ…
どういうわけなのよ…
岡山に帰って、カノジョに会ったのじゃないの?
ゼンゼン話が違うわよ…
アタシは、300メートル先にいるカレを呼んだ。
「ちょいとあんた!!」
「わっ…」
カレは、アタシのもとへやってくるなりこう言うた。
「ビックリするじゃねえか!!」
「ビックリしたのはアタシの方よ!!あんた、岡山へ帰っていたのじゃなかったの!?」
「はぁ?」
「はぁ?じゃないでしょうがあんたは!!あんた、どうして岡山へ帰らなかったの!?もしかして…帰るのがイヤになったから、どこかでウロウロしていたと言うわけじゃないでしょうね!?」
アタシの問いに対して、カレは『その通りだよ。』とあっさりとした口調で言うた。
アタシはムッとした表情でカレに言うた。
「『その通りだよ…』じゃないでしょ!!あんたもしかして、カノジョのことがイヤだからここまで逃げてきたのかしら!?」
「うるせーな!!さっきからあんたあんたってオドレは言うけど!!オレの名前はようすけと言うのだよ!!名前を覚えろよ!!」
「そういうようすけこそ、アタシのことをオドレと言うたわね!!アタシの名前はみやびよ!!ようすけこそ、アタシの名前を覚えなさいよ!!」
「なんだと!?」
ふたりは、しばらくの間口げんかをした。
ひと間隔を空けてから、アタシはカレにこう言うた。
「それよりもあんた!!」
「何だよ!!名前で言えよ!!」
「うるさいわね!!アタシの話を聞きなさいよ!!あんた、いつになったらカノジョと真剣に向き合うのかしら!?あんたはカノジョを本気で愛していないのかしら!?」
「愛しているよ…カノジョのことは本気で愛しているよ…」
「ムカつくわね!!アタシはあんたのイクジナシにムカついているのよ!!あんた、本当のことを言うと、カノジョの親きょうだいからあんたとカノジョの結婚を反対されているのじゃないの!?」
「反対されていないけれど……反対されていると思うから…こわいのだよ…」
あ~あ…
本当にイクジナシね…
って言うか…
最初から…
お嫁さんが来てもらえない態度になっているから…
結婚生活は無理だと想う…
こりゃお手上げね…
アタシはこう想いながらも、カレに聞いてみた。
「ねえようすけ。」
「何だよ?」
「あんたさ…もしかしたら…本気の恋を…したことがないのかしら?」
「どちらかと言うと…そうかもしれない。」
「やっぱりね…だったら、アタシが教えてあげようか?」
「教えるって、何をだよ?」
「あんたが付き合っているカノジョとマンネリとならないようにする方法よ。」
カレに言うたアタシは、吸いかけのたばこを地面にポトッと落としてスニーカーのかかとで火を消して、ケータイの灰皿にすいがらを入れた。
アタシの言葉に対して、カレは『お願いします。』と言うたので、早速アタシはカレとデートした。
アタシとカレは、帯屋町商店街のアーケード通りから大丸デパートまで手をつないで歩いた。
この日は、大丸デパートでショッピングデートを楽しんだ。
オシャレなブティックやアクセサリーの店などに行って、たくさん買い物を楽しんだり、オシャレなカフェに行って、お茶をのんだりして、ふたりきりの時間を楽しんでいた。
それから2時間後の夕方5時半頃のことであった。
ところ変わって、はりまや橋の近くの公園にて…
ふたりは、ベンチに座ってお話しをしていた。
「みやび。」
「なあに、ようすけ。」
「今日のデート、とても楽しかったよ。ありがとう。」
「よかったわね…」
アタシがようすけに言うたあと、ようすけはアタシにこう言うた。
「あのさ…オレ…」
「なあに?」
「いや…何でもない。」
「何なのよぉ…いいかけたことはきちんと言いなさいよ!!」
「何でもないさ。」
「変なの。」
カレは、ひと間隔をあけてからアタシにこう言うた。
「あのさ…オレ…みやびのことが…好きになっちゃった…」
「えっ?何アホなことを言うているのよ?ねぼけたことを言わないで!!」
「ねぼけてなんかいない…オレは…本気で…みやびにほれている…オレ、岡山には帰らない…」
「岡山に帰らないって…ソレって本気で言うているのかしら?」
カレは急に立ち上がった後、アタシに一緒に暮らしたいと申し出た。
「ようすけ…」
「オレ…みやびのことが好きなのだよ…大好きなのだよ…」
カレの言葉を聞いたアタシは、知らないうちに乳房(むね)の奥がジーンと熱くなっていた。
「ようすけ…」
「オレと…結婚をしてくれ…」
カレの言葉を聞いたアタシは、つい『一緒に暮らしましょう。』と言うてしまった。
そして、アタシとカレは同棲生活を始めた。
ふたりがうまく行くかどうかについては、何かと前途多難であった。
ところ変わって、アタシとカレが暮らしている分譲マンションの部屋にて…
ふたりの暮らしは、こんなふうになっていた。
カレは、日雇いでもいいから仕事を探してくると言うて仕事を探しに行った。
アタシが夜のお勤めに行ってる間は、カレが部屋にいて一晩中留守番をしていた。
アタシが朝方帰ってきた時には、カレが部屋をきれいに掃除をしていたので何かと助かっていた。
アタシは、カレがきちんとした仕事が見つかるまでがんばって行こうと言い聞かせて、日々の暮らしを送っていた。
アタシも、本当の恋をしたことがなかったので、知らないうちにカレのことを好きになっていた。
うれしい…
この幸せが、長く続くように…
1日でも長く続くように…
しかし、同棲生活は2週間で早々とリタイアをした。
同棲生活を始めてから15日目のことであった。
アタシが勤めているナイトクラブのホステスさんから『チーママから聞いた話だけど、これ知っているかしら。』とアタシに言うてから、1枚の紙を手渡した。
ホステスさんから紙を受けとったアタシは、書かれている内容を見た。
受け取った紙は、岡山県警からの捜索願いの情報であった。
捜索願いが出ていたのは、こともあろうにようすけだった。
紙には、ようすけの顔写真と家出をした日時から家出をした時の服装までこまごまと書かれていた。
ビックリしたアタシは、桟橋通り1丁目の分譲マンションの部屋へ帰ることにした。
アタシがマンションに帰ってきた時であったが、部屋の中でえげつない声が聞こえていたので、アタシの怒りが頂点に達した。
アタシは、意を決して部屋の中へ入って行った。
この時、アタシが使っている大きめのベッドの上にカレと見知らぬ女が生まれたままの姿でイチャイチャしていた。
しかも、アタシ以外の女の泣き声がとなりの部屋にまで響いていた。
そんなことはおかまいなしに、ふたりがイチャイチャしていた。
ムカッと来たアタシは、戸をバーンと開けた。
アタシが突然ベッドルームに入って来たので、カレとアタシ以外の女はビックリした。
「コラー!!ようすけ!!あんたはアタシの目を盗んで人のベッドでアタシ以外の女とイチャイチャしていたわね!!」
「違うよ、誤解だよ…オレは、カノジョが…気分が悪いというていたから…」
「見苦しいいいわけなんか聞きたくないわよ!!」
(バシッ!!バシッ!!バシッ!!バシッ!!)
アタシは、カレに往復ビンタを喰らわせた後に店に電話した。
カレは、それから30分後に所轄の警察署に保護された。
それからまた10日後のことであった。
カレ・ようすけと別れたアタシは桟橋通り1丁目の分譲マンションを売却した後、菜園場通りにあるマンスリーアパートに引っ越した。
あとになって分かったけど、ようすけはケーサツに保護された後に岡山県の結婚支援センターをナンパ目的で利用していたことが明るみになったので、複数の女性とトラブって大問題になった。
ようすけと別れたアタシは、新しくできたカレとつき合っていた。
よく考えてみたら…
アタシは、本気の恋ができない女です。
【おしまい】