月夜見の女王と白銀の騎士
 大食堂の裏手へと伸びる石畳を踏みながら、メアリは頬を手で覆う。

「こ、こんな話をしている場合じゃないわ」

「こんな時だからこそ、というのもあるだろ?」

 ユリウスがそう返した時、メアリの行く手に二階建てのレンガの建物が現れた。
 一階に見える黒い鉄の扉が地下牢への入り口だ。

 扉を挟んで並び立つふたりの衛兵は、メアリに気付くと姿勢よく頭を下げる。
 ユリウスは衛兵にヴェロニカとの面会を告げ、重い扉を開けさせると、入ってすぐの詰め所で、ランタンと外套を受け取った。
 メアリの手を取り先導するユリウスが、地下へと続く石の螺旋階段を下りながら優しく微笑む。

「まあ、今の話はちょっと刺激が強かったかもしれないけど、力まず、君らしく話せるのが一番だ」

 そうであることで、ヴェロニカも心を開いてくれるのではないか。
 メアリが他意なく作ったポプリが、ユリウスの父の心を癒したように。

「力まず、私らしく……」

 階段を下りながら呟いたメアリは、ユリウスの気遣いを嬉しく思い笑みを浮かべる。

「ありがとう、ユリウス。ありのままの私の言葉で話してみる」

 やがて薄暗い地下に到達すると、ひんやりとした空気を肌に感じてメアリは身震いした。
 小さな明かりが点々と灯る通路を進むと、さらに階段が現れる。
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