月夜見の女王と白銀の騎士
(でも、彼は眼帯をしていなかった。それなら、城の門を通る時はもうひとりいた? どちらにしても、ヴェロニカ様を狙ってやってきているとしたら大変だわ)

 騒ぎの原因が件の青年であるなら、ヴェロニカの身を守るのが先決。
 杞憂であればいいが、そうでなければ一刻も早く動かねばと窓から離れたメアリの耳に、小さいが確かにうめき声が聞こえた。

(なに……?)

 メアリは首から下げている母から託されたネックレスを手の中に包み、父の愛剣を手に取ると、足を忍ばせ声がした控えの間への扉に近づく。
 争うような物音は聞こえず、気のせいだったのかと首を傾げた刹那、コンコンと扉がノックされた。

「陛下? 少々よろしいでしょうか」

 それは、どこかで耳にしたことのある少し高めの声だった。

 ユリウスではない。
 イアンでもない。

 しっかりと思い出せないが、聞き覚えがあるということは騎士の誰かだろう。
 騒ぎの報告に来たのかもしれないと考え、メアリは「どうぞ」と答えた。
 しかし、ゆっくりと扉が開いて現れた人物は、騎士服を纏ってはいなかった。
 だが、メアリはその者が誰であるかを覚えている。
 大海原を彷彿とさせる青と、深い夜を落としたような黒色のオッドアイ。

(ランベルト様と一緒にいた人……)

 さきほど要注意人物として思い至った青年が、なぜここにいるのか。
 それと、扉を開けた瞬間から鼻をくすぐるこの甘い匂いは何なのか。
< 108 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop