月夜見の女王と白銀の騎士
 アクアルーナに住まう民を導く女王となったのだ。

 王女だと発覚してからそう長い月日が経ったわけではないが、そろそろ自分の立場を鑑みてほしいというイアンの想いに、メアリは眉を下げた。

「ごめんなさい、癖がなかなか抜けなくて。公の場では気をつけます」

「いえ、普段から気をつけていただけると助かります」

 癖というものはなかなか直せないもの。

 常日頃意識しなければ、いつまで経っても変わらないだろう。

 口にしていないが、イアンのお説教が聞こえてくるような気がしたメアリは、「ぜ、善処します」と背筋を伸ばした。

「ユリウスにはできているんです。できます」

 きっぱりと口にしモノクルを指で押し上げるイアンの表情はどこか楽し気だ。

 ユリウスとの仲をからかいがてらの物言いに、メアリが頬を染めて戸惑っていると、イアンが侍女たちに着替えを手伝うように指示した。

 メアリが侍女たちに囲まれると、イアンは小さく頭を下げる。

「では、また明日。失礼します、陛下」

「はい。おやすみなさい、イアン様」

 また〝様〟を付けたため、溜め息を残して扉の外に消えたイアン。

 クスクスと笑う侍女たちに「私たちはそんな陛下が好きですよ」と慰められると、メアリは身を締め付けているコルセットが緩められるのに合わせて「ありがとう」と頬を緩めた。


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