月夜見の女王と白銀の騎士
 会議の間は、緊迫していた。
 軍議に参加する面々の表情は固く、漂う空気は重い。

 イアンとオースティンは最初こそユリウスを始め、警備にあたっていた者たちを叱責したが、処罰は与えなかった。

 城内の警備は万全だったにも拘わらず、敵を入城させ、白昼堂々、まんまとメアリを連れ出されている。
 城にいる誰もが、止められなかった。
 誰もがメアリを守れなかったのだ。
 だが、それを悔いていても事態は好転しない。
 反省は後にし、ただちに最優先すべきはメアリの捜索だ。

 円卓を囲む者の中には、捜索に協力すると申し出たライルの姿もある。

 オースティンは腕を組み、厳しい顔つきで皆を見渡す。

「倒れていた者たちの証言によれば、皆一様に強い香りに気付いた直後、意識を失ったらしい。陛下に部屋にも香りが残っていた。そうだな、ユリウス?」

「はい。塔の入り口から徐々に濃さは増していたので、階下の者から順に眠らせ、最後に陛下を攫う際に香りを放ったのではないかと」

 状況を思い出しながら語ると、ライルが「少しいいか?」と軽く手を上げてアピールする。

「あの甘ったるい香り、多分グロルマディンの花で精製した香だ」

 ライルの言葉を受け、イアンはモノクルに手を添えた。

「グロルマディン……聞いたことがあるな。確か、一晩しか咲かない花だったか」

「さすが物知りな宰相殿。一晩しか咲かず育ちにくいグロルマディンは、緑豊かなフォレスタットでも数が少ない貴重な花だ。故に、製油は高価で店や市場に並ぶことは稀でね」

 続けてライルが語るのは効能について。
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