月夜見の女王と白銀の騎士
「グロルマディンの精油は通常水で薄めて寝具に吹きかけて使う。もたらす効果は睡眠だ」

 曰く、不眠症には効果覿面で、ライルの兄がフォレスタットの宮廷医師に勧められ、使用したことがあったために香りを記憶していたとのこと。
 黙って話を聞いていたルーカスは僅かに首を捻った。

「で、そのグロルマディンの精油を希釈せずそのまま使うと、強烈に眠くなるってことか?」

 問いに答えようとライルが円卓に乗り出すように肘を預けた時だ。

「いいや、ならない!」

 力強く扉を開いてジョシュアが入室し、イアンとオースティンの間に立つ。

「グロルマディンだけでは人が気を失うほどの眠気には襲われない。何かの薬品と調合して作っている可能性が高いだろう」

「薬品に検討は」

 振り向きながらイアンが尋ねると、ジョシュアは堂々と「ついていない!」と答えた。

「そんなことより僕のメアリを攫ったヤツはどこだ!」

 怒りを露わに興奮するジョシュアの背を、オースティンは宥めるように軽く叩く。

「それを今から突き止めるんだ。騒ぎの兵たちはどうなった?」

 医務室で治療にあたったジョシュアは医者の顔で首を振る。

「ふたり、死んだ。生きてる五人のうちふたりは重傷だけど、命に別状はない」

 死亡者は火だるまになった衛兵と、最初に斬りつけられた衛兵だ。
 首を深く斬られており、医務室に運ばれてすぐに息を引き取ったとジョシュアは神妙な面持ちで語った。

 ユリウスは円卓の下で拳を握る。
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