月夜見の女王と白銀の騎士
 斬られて死亡した衛兵は、ユリウスも何度か接したことがあった。
 十代の若い新人で、いつか王立騎士団に入団したいと話していた。

 叶わぬまま命を落とすこととなり、さぞかし無念だろうと冥福を祈るよう目を伏せる。
 オースティンも「冥福を祈ろう」と偲び、次いでイアンが尋ねた。

「意識のある者は、状況について詳しく話せたか?」

 ジョシュアは「ああ」と答え、頷く。

「見たことのない顔だったと言っていたよ」

「タグは?」

 オースティンが確認するのは、兵士や騎士たちの身分を証明する銀製の認識票だ。
 国籍や名前、血液型や所属などが記されており、戦争などで命を落とした際、個人を特定できるよう常に身につけている。
 もちろんユリウスも所持しており、今も騎士服の内で首から下げられているのだが。

「焼死した彼からは見つからなかった」

 ジョシュアの発言に、会議の間がざわつきに包まれる。
 そんな中、イアンとオースティンは冷静に顔を見合わせ頷いた。

「やはり、ランベルト大侯爵の従者の可能性が高いな」

 イアンの言葉に、オースティンが続ける。

「城門警備の兵によると、ランベルトと共に城門をくぐったのはふたりの従者だったが、帰りはランベルトのみだったらしい」

 話を聞いたユリウスは、ひとつの可能性に即座に辿り着いた。

「ひとりは囮として暴れ、その隙にもうひとりが陛下を攫ったのか……」
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