月夜見の女王と白銀の騎士
 ライルの思いを汲み、ユリウスは緩く頭を振ると努めて冷静に答える。

「攫われてはいない。だが、メアリは確かに視た。そして、その情報を俺たちは信じている。信じるに足る出来事が過去にいくつもあったからだ」

 触れるか触れないかのギリギリの範囲で伝えたユリウスに、ライルは「なるほど」と腕を組んだ。

「どうやら特別な事情がありそうだな。俺も一応王子なんてやってるんでね。話せないというものを無理に聞き出す趣味はない。配慮はするさ。ただ、焼死と誘拐、このふたつの共通点だけでも十分に俺が追っている奴らの可能性がある。もしランベルト大侯爵の屋敷に乗り込むなら、俺も同行させてもらう」

 ライルの瞳は力強く、任務だからというよりも、親友のために動いているのが見て取れる。

「わかった。イアン殿と団長に話しておこう」

「恩に着るよ」

 凛々しい瞳を細めたライルに、ユリウスが「では、俺はこれで」と頭を下げた時だ。

「冷静だな」

 感心するライルは、苦笑して話を続ける。

「メアリがいないと降りてきた時は、今にも城を飛び出していきそうなほど、切羽詰まった顔してたってのに」

 ライルのいう通り、女王の塔から出た時、ユリウスは確かに穏やかではなかった。
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