月夜見の女王と白銀の騎士
「……オースティン騎士団長。何用だ」

 話す相手もいない日々が続き、ランベルトが発した声は掠れている。

「ランベルト大侯爵殿に、朗報をお持ちしましたよ」

 朗報と口にした割には、顎髭を生やした雄々しい顔に表情はなく、ランベルトは鼻で笑った。

「朗報とはなんだ。いよいよ宰相がお払い箱になったか? それとも騎士団長殿が新女王から解雇を言い渡されたか?」

 イアンとオースティンに対する嫌味に、オースティン本人ではなく両脇に立つ騎士らの方が目つきを鋭いものに変える。

 空気が張りつめる中、オースティンは、かまうなと言うように右手を軽く上げて騎士たちを制した。

「残念ながら、どちらでもありませんよ」

「ふん、ではなんだ」

「心優しき女王陛下より、釈放の命が下されました」

 女王陛下という響きに、ランベルトの心がまたざわつく。

 メアリが即位した話は昨日、見張りの者から聞かされていた。

 故に、昨夜の夕食はいつもよりも良いものが振る舞われたのだが、ランベルトは口を付けず、水だけを飲んで返した。

 祝うつもりなど毛頭ないからだ。

「慈悲の心を見せ、民衆の心でも掴む魂胆であろう」

 政治的戦略で、イアンあたりが入れ知恵でもしたのだろうと嘲笑うと、今度はオースティンが鼻で笑った。

「メアリ女王陛下は、ヴラフォス帝国の宰相を黙らせ、同盟を結び付けた功績により十分国民の心を掴んでいます。個人的には、あんたを釈放することは陛下の評価をマイナスにすると俺は思っていますがね」
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