月夜見の女王と白銀の騎士
 手足が不自由な状態で攻撃を避けることは不可能だ。
 一か八かとなるが、剣をどうにか奪って、せめて足の縄だけでも解くことはできないだろうか。

 心臓が破裂しそうなほど、激しい収縮を繰り返す。
 浅い呼吸にメアリの肩が上下する中、ランベルトの剣が、蝋燭の炎に照らされ怪しく光った。
 ランベルトがにたりと口元を歪め、剣を振る上げる。

「私には、特別な血が流れている! そうだろうダリオ⁉ 私こそが、教団の崇めしめがっ……みの……」

 悦に入り興奮気味に語っていたランベルトの勢いが、突如失速する。

 その理由は、メアリの目にはっきりと見えていた。

 ランベルトの腹から、剣の切っ先が突き出ているのだ。

 カラン、と音を立ててランベルトの手から剣が落ちる。
 だが、背から腹を突き破る剣は動かない。

 ランベルトの目玉がぎこちなく右へと動き、背後に立つ青年を見ようとする。

「な……ぜだ……ダリオ……」

 問われた青年、ダリオは、ランベルトを刺したままにっこりと笑った。

「ランベルト様の役目は終わったからだよ」

「わ、たし……は、救世主だと……」

 必死に喋るランベルトの口から赤黒い血が流れ落ちる。

「それ、全部嘘なんだ。あんたを動かすための嘘。僕らの本当の救世主であるメアリ女王陛下を手に入れるための、ね」

 ごめんね、と謝る声に反省の色は全く見えない。
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