月夜見の女王と白銀の騎士
 とうとう膝から崩れ落ち、床に倒れたランベルトは口から大量の血を吐いた。

「ランベルト様!」

 手当をしようと必死に縄をほどこうともがくメアリを、息も絶え絶えにランベルトが見つめる。

「しっかりしてください、ランベルト様っ」

「ち……ち、うえ……なぜ、私を……てくだ、さら……」

 死の間際に見るという走馬灯が脳裏に過っているのか、ランベルトは小さな声で独り言を呟き続ける。

「私では駄目なら、……っ……子に……ヴェロニカ……おま……は、女王に……私のために、女王、に」

 震える手をメアリへと伸ばすランベルト。
 握ってやりたくとも縄に拘束されてできないメアリは唇を噛んだ。

 ランベルトの双眸から涙が落ちる。

「な、ぜ……誰も……わ……しを、認めて、くれ……ぬの……」

 最期、絞り出すように吐かれた本音が、メアリの心を締め付けると、ランベルトの腕が力を失い事切れた。

 ダリオは「お疲れ様」と労い、ランベルトから剣を抜き取る。

「彼は、僕と同じだ」

「同じ……?」

 涙目のメアリに、ダリオは口元だけで微笑む。

「この世界は、幸と不幸でできている。誰かの幸せは誰かの不幸であり、僕や彼に与えられたのは不幸だ。君にはどちらが与えられた?」

 質問を受けたメアリは、ダリオの心が傷ついてきたことを悟った。
 その傷は深く、癒えないままなのだろう。
 ヴラフォスの前皇帝を憎んでいたモデストのように。
< 131 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop