月夜見の女王と白銀の騎士
 まさかそうくるとは予想していなかったのだろう。
 もろにダメージを受けたダリオは、鼻からたらりと血を流した。

「……巫女様、ちょっとおとなしくしようか」

 ダリオは怒りを滲ませた笑みを浮かべ、腕でぐっと鼻血を拭うと懐に手を入れる。
 取り出したのは透明な小瓶だ。
 中に入った白い液体がとろりと揺れる。

「そ、それはなに?」

「飲むタイプの超強力な睡眠薬。これ飲んでしばらく寝ててくれる?」

 小瓶の蓋を歯で噛んで開けたダリオは、膝立ちするメアリを床に押し転がした。
 咄嗟に身を縮めて頭への衝撃を避ける。

(そういえば、塔で使ったあの香りは貴重だと言ってた)

 乱用ができない為に別の薬なのだろうが、液体なら飲まなければどうにかなる。

「はい、巫女様あーん」

 子供に食事を与えるように促されるが素直に口を開けるはずもなく、メアリは唇を真一文字に結んだ。

「まあ、普通はそうくるよね」

 はあ、と面倒くさそうに息を吐いたダリオだったが、なぜかその表情はすぐに愉悦を含んだものへ変貌する。

「今はちょっと面倒だけど……ふふ、いいね」

 仰向けに転がっているメアリの上に素早く跨ると、ダリオは舌なめずりした。

「抵抗する女の子を屈服させるの、実は僕、大好きなんだ」

 狂気じみた笑みにゾクリと背筋に悪寒が走り、危険を感じたメアリが身体をよじって抵抗を示すもダリオには効かない。
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