月夜見の女王と白銀の騎士
 イザークの部隊が、扉を閉めに向かう敵を阻止。
 おかげで、ユリウスとライルたちは腕で口元を覆いながら難なく教会内への突入を果たした。

 まだ煙が薄く漂う玄関廊下を走り抜けると、負傷し端に座り込んでいた敵兵が「ユリウス隊長」と声をかけてくる。
 即座にイアンの鴉だと気付き、ユリウスは片膝をついた。

 鴉はユリウスと同じ歳くらいの青年で、右腕で腹部を押さえている。

「怪我をしたのか」

「どうぞ、お構い、なく。それより」

 鴉の青年が何かを言いかけた時、どこからか高い鳴き声が聞こえてユリウスは顔を上げた。
 ライルが明るい表情を見せる。

「フィーユの鳴き声だ。見つけたか!」

 どうやらフィーユにメアリを探索させていたようだ。

 鳴き声の方向を探るユリウスの腕を青年が掴む。

「陛下は、ご無事です。傷つけてはならないという話を、兵士たちから聞きました」

 青年の話がユリウスに大きな安堵を与え、ずっと強張っていた表情が僅かに緩む。

「そうか……良かった。情報、感謝する」

 礼を告げ、ユリウスは「アズール」と寡黙で忠実な部下を呼ぶ。

「はい、隊長」

「彼を医療班のところまで頼む」

「わかりました」

「ウーゴはサポートを」

「よっしゃ。任せてください」

 筋肉隆々のウーゴがガッツポーズで答え、アズールが鴉の青年に肩を貸す。

 再びフィーユの高い声が聞こえると、ライルが「ユリウス」と声をかけた。

「フィーユの鳴き声の方向からして、メアリは多分聖堂あたりにいる」

 あっちだとライルが指差すのは、まさに聖堂。
 ユリウスは、頭に叩き込まれた教会の地図を思い浮かべ頷いた。
< 141 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop