月夜見の女王と白銀の騎士
「巫女様には薬で眠ってもらっただけだよ。それにしても、こんなに早く見つかるとは思わなかったな。よくここだってわかったね。巫女様が視ていたのかな?」

 楽しそうな声はいつかの晩、屋根の上から降ってきたものによく似ていた。
 ライルも気付いたようで、ハッと笑う。

「なるほど、誘拐犯はならず者たちをけしかけた男だったわけだ」

「正解」

 誤魔化さずに答えた青年にユリウスは問う。

「月夜見の巫女と呼んだのは、知っていたからか」

「そうだよ。スラムのならず者たちのおかげで、報告にあった瞳の変化もばっちり確認できた」

「報告か。では、お前に報告をしたやつはどこで知った」

「イスベルの決戦、と言えばわかってもらえるかな?」

 ヴラフォスのイスベル。
 モデストを捕らえるべくぶつかったあの戦に密偵が紛れていたことを示唆する青年は、得意げに「で、あの方に見込まれて、僕が派遣されたってわけ」と話した。

「そろそろお喋りは終わりにして、行っていいかな? たくさん答えてあげたし、もちろん見逃してくれるよね?」

 見逃すはずがなく、ユリウスは「無理な相談だな」とスペランツァを構えた。

「ケチだなぁ」

 子供のように唇を尖らせた青年に、ライルが口を開く。

「なら、もう少し教えてくれるか」

「見逃してくれるならね」

 青年がにっこりと笑う。
 ライルも微笑んで返すが、その瞳は冷ややかだ。
< 144 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop