月夜見の女王と白銀の騎士
「フォレスタットで多発している誘拐事件もアンタらの仕業か」

 尋ねられ、青年は首を傾げた。

「どの誘拐を指してるのか知らないけど、いくつかはそうかもね?」

「なら、攫った女性にフェデリカという名の者は?」

 ライルが親友ジョンの婚約者の名を出す。

「フェデリカ? どうかな……いたかもしれないけど、ハズレばっかりだったから忘れたよ」

 ハズレとは、何をもっての言葉なのか。
 兵士と睨み合うユリウスの眉根が寄せられる。

(メアリと同様の力を持つ者を探している……のか?)

 いまいち目的が不明だが、捕らえて吐かせればはっきりとするだろう。
 そう逡巡するユリウスの隣で再びライルが問いかける。

「じゃあ、その女性を追ってヴェルデの北、黄昏の森で死んだジョンという男のことは?」

 フォレスタット王都より西にある街ヴェルデ。
 街の北方にある深く薄暗い森の名か、はたまたジョンの名か。
 耳にした青年の双眸が思い当たったとばかりに見開かれる。

「ああ、あの婚約者うんぬんの! 覚えてるよ。嗅ぎまわって鬱陶しかったから、僕が直々に殺してあげたんだ」

 まるでいいことをしたと言わんばかりの満面の笑みで答えた青年。

 親友の命を奪った相手が判明し、ライルは殺気立った。

「そうだ! フェデリカって言ってた! 死ぬ間際まで何度も何度もフェデリカを返せって。大して強くもないのに必死になって僕に剣を向けてさ。フェデリカはもう死んだって教えてあげたら、絶望して叫んでたっけ。最期に呟いたのもその子の名前だったよ」

 親友の最期をバカにするように薄ら笑いで告げられ、ライルの殺気が最高潮にまで達する。
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