月夜見の女王と白銀の騎士
「ユリウス、悪いがあいつは俺が八つ裂きにする」

「すまないが譲れないな」

「じゃ、仲良く分け合うとしようか」

 不穏な軽口を紡ぐライルが、怒りを爆発させるように敵兵へと突っ込む。
 ほぼ同時、ユリウスも立ち塞がる敵へと全力で斬りかかり、大柄な相手の息の根を止めた。

 加減など一切ないライルとユリウスの鮮やかで容赦ない攻撃に、ひとり、またひとりと敵兵が劣化し傷んだ椅子にぶつかって倒れていく。

「ちょっと! 見逃してくれるんじゃないの?」

 一歩、むくれた青年が下がった。

「頷いてはいないだろう」

 ライルが肩眉を上げて不敵な笑みを浮かべる。

「卑怯者」

「はっ、人さらいがよくもぬけぬけと」

 瞳の奥を憤怒で染め上げ、目の前の敵を斬り倒すライル。

 青年がさらに一歩後ろに下がったのを見て、ユリウスは密かに焦った。
 まだ敵の壁が邪魔をしているというのに、このままでは相手をしているうちに逃げられてしまう。
 どうにか敵を掻い潜って青年のところまで追いつけまいかと、苛立ちを乗せた剣は太刀筋が甘くなり、まんまと相手の長剣に受け止められた。

 青年が後退すべく身を翻す。

「待て!」

 ユリウスが叫んだのと、メアリを心配して見守っていたフィーユが青年に体当たりしたのは同時だった。

「キューーーーッ!」

「うわっ」

 フィーユの突撃に驚いた青年が僅かによろける。

 その隙をついてユリウスたちの後方から飛んできた矢は、ホールの敵を片付けてきたセオによるものだ。
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