月夜見の女王と白銀の騎士
 剣を拾い、道が再び交わる手前で足を止めたユリウスは、ごつごつと隆起した壁を背に身をひそめ、青年がやってくるのを待つ。

 駆ける足音はすぐに聞こえ始めた。

 抱えられたメアリを間違って傷つけないよう、慎重にタイミングを見計らう。

 迫る足音にスペランツァを構え、青年が曲がり角から飛び出すと、ユリウスは肩から背に向かって斬りつけた。

 不意打ちをくらった青年は急ぎ避けるも、間に合わずに傷を負う。

 走る痛みに一瞬足を止めた青年に、ユリウスが追撃を仕掛けようとした時だ。

「ユリウス! しゃがめ!」

 背後から聞こえたライルの声に、ユリウスは身を低くする。
 飛んできたのはライルのサーベルだ。

「またぁ⁉」

 青年はメアリを抱えたまま寸でのところでサーベルを躱したが、体勢を崩してふらついた。

 ずるりと青年の腕からメアリがずり落ち、好機と見たユリウスは、奪うようにしてメアリを取り返す。

「返せよ泥棒!」

 尻餅をついた青年に、予備の剣を手にしたライルが襲い掛かる。

「泥棒はアンタだろうが!」

 ライルと青年が打ち合っているうちに、ユリウスはメアリを坑道の隅に避難させた。

「メアリ!」

 腕の中、瞳を閉じたままのメアリ。
 反応はないが、掴んだ手首には指を押し返すしっかりとした脈がある。
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