月夜見の女王と白銀の騎士
 歯を食いしばって振り向いた先には、ユリウス。

「白銀の、騎士……」

「これで、逃げることは叶わない。メアリを攫うことも」

 ユリウスは、自らの剣で腰に深い傷を負った青年が、足の力を失い倒れる様を冷たい目で見ていた。

 前のめりに倒れ四つん這いになった青年は、動かない下半身に絶望し顔を真っ青にする。

「僕、失敗、した……の? あの方の、役に……立てないの……?」

 はっ、はっ、と浅い呼吸を繰り返す青年の手から、ライルは短剣を奪った。

「アンタは誰の下で働いている」

 尋ねると、青年はじりじりと蹲る。

「ごめんなさい……僕は、役立たずでした……」

 震える声で零し、頭をもたげ、ふたりが止める間もなく、いつの間にか手にしていた小瓶の中身をあおった。
 何を飲み込んだかすぐに予想がついたユリウスが「しまった!」と叫ぶのと、青年が目を充血させてもがき始めたのはほぼ同時だった。

 青年の色違いの瞳がギギギと横たわるメアリを見る。

「み、こ、様……っ……見て、よ……ぼ、くは……やっぱり……ふこ……だ、ろ」

 自嘲するように「は、は」とぎこちなく笑う青年は、とぷりとぷりと口から血を吐き、目を開けたままぱたりと動かなくなった。

「……どこの組織か知らないが、見上げた忠誠心だな。どうせ逝くなら、ジョンの仇をとらせてもらいたかったね」

 青年を見下ろすライルの肩に、ユリウスは何も言わずそっと手を添える。
 ライルは無言の励ましを受け取り、ユリウスの背中を軽く叩いて答えたのだった。






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