月夜見の女王と白銀の騎士
("あの方"の役に立てなかったことを、不幸に思って逝ってしまったのかな……)
いい人ではなかったけれど、どこか純粋さがあった。
境遇が少しでも違っていれば、毒など扱う人生ではない、平凡な日々を送れたかもしれないと思うと、メアリは居たたまれない気持ちになる。
ダリオがどこの出身かはわからない。
だが、彼のような悲しい境遇の者が少ない国、大陸となるよう、日々邁進していくことをメアリはひとり、心に誓う。
そんな中、イアンとオースティンによる報告は続く。
どうやら、掴まえた数名の信徒に自白剤を使ったらしく、それによりいくつかのことが発覚した。
まずは、ランベルトの元に最初に訪れた神官の正体はダリオだということ。
だが、それは最初だけらしく、後は背格好の似た者が引き継ぎ、宿で寝泊まりして目くらまししていたのだという。
その間ダリオは、少しずつ入国していた仲間を教会に集め、逃走ルートを確保。
そうしてヴェロニカに持たせた毒でメアリを仮死状態にし、礼拝堂に安置されたところをこっそり攫う手筈となっていた。
「カップに塗られていたあの毒は、仮死状態にする作用があったんですね……」
恐ろし気に眉を寄せたメアリに、イアンが頷く。
「ユリウスが気付かなければ、今頃陛下はネアデーア教団の手に落ちていたでしょう」
「ネアデーア教団……。それが、ダリオたちが所属している新興宗教の名前なんですね」
デーア族の名が入っていることを気にするメアリに、オースティンは胸の前で腕を組んだ。
「判明はしたものの、本拠地はわからず仕舞いです。捕らえたのは下っ端ばかりで、重要な情報は得られなかった。ダリオという青年が生きていたらまた違ったんでしょうが、面目ない」
騎士団をまとめる者として謝罪したオースティンに続き、ユリウスも頭を下げた。
「服毒を止めることができず、申し訳ありません」