月夜見の女王と白銀の騎士
「ふたりとも頭を上げて。炎で自害した兵が多い中、数名でも捕らえて教団の名前が判明したのは大手柄だと思います」

 ふたりが頭を上げると、イアンはモノクルに指を添えて頷いた。

「ええ、そうですね。陛下がダリオから得た情報を合わせれば、教団の根城を突き止めることも不可能ではない」

 今度はメアリが頷いて口を開く。

「ティオ族はデーア族であり、その名を含んだネアデーア教団は女神を崇めている。そして、私を巫女と呼び、救世主と信じていた。指示したのは恐らく教団のトップで、その目的は私の血……」

「邪教、なんだろうか」

 ユリウスが伏し目がちに考え込むと、イアンがどこを見るともなく思案しながら答える。

「血、か。今まで攫われた者たちもデーアに関係していていると思われ、捕らえられたんだろう」

「予知の力ではなく、血が必要……か」

 オースティンが零し、メアリは静かに顔を上げた。

「攫われた方たちが助けを待っているかもしれない。フォレスタットとヴラフォスにも協力を要請して、教団の根城を探しましょう」

 メアリの指示に、イアンとオースティンが姿勢を正す。

「御意」

 声を揃え、頭を下げたふたり。
 そうして退出する間際、イアンが「ああ、そうだ」とメアリを振り返った。

「陛下、怪しい予知を視たらユリウスだけでなく私にもご報告を。今回のように攫われた後に知らされるのは困ります」

「ご、ごめんなさい」

 慌てて立ち上がり肩を小さくするメアリにイアンはため息を吐く。

「謝罪はけっこう。行動で示してください。陛下の命が、国の未来がかかってるんです」

「はい。気をつけつつさらに頑張ります!」

「頑張っているのは知っています。ただ、色恋に溺れて大切なことをお忘れなきよう」

「……は、はい」

「イアン殿、申し訳ありません」

 顔を赤らめたメアリの隣で、ユリウスまで謝罪するのを見たオースティンが喉を鳴らして笑う。

「仲が良くて結構じゃないか。ふたりがそうやって並んでいられるように、騎士団も力を尽くそう」

 賑やかな笑い声と呆れた溜め息が去っていく。
 扉が閉まり、メアリとユリウスは苦笑し合うと、再び書類に向き合うのだった。


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