月夜見の女王と白銀の騎士
それから二日後のこと。

 緑青の旗が風にたなびくフォレスタットの大型船を前に、メアリはライルと向かい合っていた。
 航海にはうってつけの青空の下、互いの背後で臣下たちが見守っている。
 ライルは目を細めて微笑んだ。

「うちの女王陛下から白夜の神殿についていい返事ももらえたし、メアリ女王陛下も無事に助けることができた。ジョンの仇はまだ討てたとはいえないが、あの世に逝ったダリオをジョンが直接殴るだろう。まあ、ひとまずは落着だな」

「そうですね。ライル王子、本当にありがとうございます」

 これから国へ帰るライルに心から礼を述べるメアリに、ライルは白い歯を見せて笑った。

「困った時はお互い様さ。それに、ネアデーア教団のことで今後も手を取り合うことになる。何かあれば、うちも頼らせてもらえると嬉しいね」

「もちろんだわ。よろしくお願いします」

 メアリが笑みを浮かべると、ライルの肩に座るフィーユがキュと鳴く。

「フィーユ、あなたも助けに来てくれてありがとう」

「キュイ!」

 小さなフィーユを見つめるメアリは、皆に助けられた晩のことを思い返す。

(あの時、ダリオがフィーユについて何か言っていた気がするけど、よく思い出せない)

 デーアがどうのと聞こえたが、意識が朦朧としたので気のせいかもしれないと、メアリはひとまず考えることを止めた。
 ただ、羽が生えていたのは見間違いではないことは、昨晩、帰国報告の折りにライルより聞かされている。
 ウルズは月の輝く晩にだけ、羽を広げる珍しい動物なのだと。

 どこが自分に似ているなと親近感を持ちながらフィーユの頭を撫でると、ライルが「そういえば」と口を開く。

「手強い敵が君の味方になったと聞いたが本当かい?」

「敵?」

 首を捻るメアリに、イアンが一歩近づいた。

「ヴェロニカ様のことかと」

 出された助け舟に、なるほどとメアリは微笑む。

「ヴェロニカ様は敵だったわけじゃないの。ちょっとこじれていただけで」

 そう言って、再び思い出すのは昨晩、ライルがやってくる数刻前のこと──。
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