月夜見の女王と白銀の騎士
謁見の間にて、ヴェロニカはメアリに一礼した。

『父の葬儀に参列できるよう取り計らってくだり、心より感謝申し上げます、陛下』

『いえ……ダリオの凶行を止めることができず、ごめんなさい』

『いいえ、陛下。これで良かったのですわ。父はアクアルーナの王族という呪縛からようやく解放されました。わたくしも、重荷がようやく下ろせた気が致します』

 ヴェロニカの瞳はどこか晴れやかで、メアリは微笑みを浮かべた。

『イアン、お願いします』

『はい、陛下』

 ヴェロニカが頭を下げ、判決を待つ中、イアンの厳しい声が謁見の間に響く。

『此度の騒動について、ヴェロニカ・アクアルーナへの刑を申し渡す。貴公の行いは、女王陛下の命を危険に晒した許しがたきもの。しかし、長年に渡り政治の道具として生かされ、自由を奪われた末に利用されていた事実も到底許されぬべきものである』

 紡がれた言葉に、ヴェロニカの頭が僅かに上がる。

『よって、毒殺未遂の罪は父ランベルト大侯爵が死を持って償ったものとし、ヴェロニカ・アクアルーナへの刑は爵位剥奪のみとする』

 言い渡された刑にヴェロニカは眉を下げ、今度ははっきりと顔を正面へ向かせた。

『陛下……』

『ヴェロニカ様に、自由をお返しします』

 爵位はなく、王位に縛られることもない、ひとりの女性、ヴェロニカ・アクアルーナとして生きる自由を与えたメアリ。

『どうか、ヴェロニカ様が心から求める幸せを手に入れてください』

 牢で語ったヴェロニカが焦がれていた幸せ。

 メアリの計らいにヴェロニカは瞳を涙で滲ませた。

『本当に、心配になるほどお人好しな方』
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