月夜見の女王と白銀の騎士
 今から半刻ほど前、メアリはヴェロニカと初めて顔を合わせた。

 ヴェロニカは、父ランベルトの釈放に関しての感謝と、晩餐会への招待の礼を口にし、美しいブラウンの髪を揺らして頭を垂れた。

『本来ならば母と共に挨拶に来るべきところ、母の具合が思わしくなく、お許しください』

 母も女王陛下の心遣いに感銘を受けている。

 ランベルトが今後政治に復帰することは叶わなくとも、アクアルーナの姓を持つ者として、女王陛下を支えるべく己が責務を果たしていく所存だと言われ、メアリは心から喜んだ。

 手を取り合い、共にアクアルーナを支えていきましょうと伝えた。

 大臣たちの視線もまだ厳しい状況で、晩餐会への参加は勇気がいっただろう。

 頼れる者も少ないはず。

 ユリウスとの談笑がヴェロニカの心を和ませ、居心地を和らげているのなら、安堵すべきところなのだが……。

(なんだか……もやもや、する。かも)

 ヴェロニカの男癖は、町娘だった頃に耳にはしていた。

 姿を見たことはなかったので知らなかったが、ヴェロニカはとても四十には見えず、さらには蠱惑的な美貌の持ち主だ。

 ユリウスが靡くわけがないとわかっていても、胸がざわつくのはそこに原因があるのかもしれないと、誰にも気付かれぬよう小さく息を吐いた。

「陛下?」

 ライルに声を掛けられ、メアリは急いで笑みを貼り付ける。

「あの、フォレスタットの王都はどのような感じなのですか?」

 ユリウスの話題から別のものに変えようとし、しかし不自然だったのだろう。

 ライルは一瞬黙って、けれどすぐに微笑むと会話に乗った。

 そのことに安堵しながら感謝の気持ちを持ち、メアリは彼の国の話に耳を傾けた。


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