月夜見の女王と白銀の騎士
 次いで腕を掴まれ引き止められれば、うっかりバランスを崩してよろめいてしまったが、優しく支え、そのまま逞しい腕の中へと自分を閉じ込めるその人が誰であるか。

 当然、メアリは声だけで理解しており、隠し切れぬ愛情を滲ませた笑みと共に彼を見上げる。

「ユリウス!」

「昨夜、今朝は墓参りに行くと聞いていたはずだけど、なぜここに?」

 首を傾げると、優しい藍色の髪が微かに流れ、メアリを見つめる蜂蜜色の瞳が柔らかく細められた。

「ジョシュア先生のところへ寄ったのだけど、帰りに色んな人から挨拶やお祝いの言葉を頂いて、気付いたら方向がよくわからなくなってしまって……」

「侍女は?」

「先に戻るように伝えたの」

「なるほど。つまり君は、俺にその可憐なドレス姿を見せる前に、城内で働く多くの者に見せて歩いていたわけだ」

 からかうように微笑んで、ユリウスはメアリの髪をひと房掬うと唇を落とす。

 辺りに人の気配はないものの、いつ誰が来てもおかしくない場所だ。

 見られてしまわないかと辺りの様子を伺うと、気付いたユリウスは、柱の陰に隠れるように移動して相好を崩す。

「ドレス、とてもよく似合ってる。悔しいな。仕事がなければ朝まで共に寝て、俺が支度を手伝ったのに」

 そうすれば、美しく着飾る姿を誰よりも先に見ることができたと嫉妬し、メアリの頬に長い指を滑らすと、端整な顔を近づけ唇を重ねた。
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