月夜見の女王と白銀の騎士
 食事が済むと、飲み物が並ぶ立食テーブルが用意された隣のサロンに集った。

 金箔で囲まれた見事な天井画の下は、会話を楽しむだけの者、商談する者、壁に飾られた絵画や骨董品を眺める者と様々だ。

 王侯貴族との会話に少々疲れが出てきたメアリは、一息つこうと冷たいグラスを手にする。

 ひと口含んで喉を潤すと、大臣たちに囲まれていたライルがメアリの元へやってきた。

「陛下、少し酔いを醒ましたいので、よかったらバルコニーへお付き合い願えますか?」

 休憩を挟みたい気持ちがあったメアリは「ええ、ぜひ」と誘いに乗り、ふたりは誰もいないバルコニーへと出た。

 冬の夜空は澄んでおり、星々が優しく瞬いている。

 メアリはグラスをバルコニーのしっかりとした手摺に置いて、白い息を吐いた。

「陛下にひとつお願いが」

「何ですか?」

「堅苦しいのは苦手でね。どうか、俺のことはライルと呼んで、出会った時のように気軽に話してほしいな、と」

「出会った時のように……ですか?」

 確かに、昼間は女王としてではなく、メアリとしての話し方で対応していた。

 あの場では女王である必要もなく、見ず知らずの相手には、女王であることを知られない方がいいからだ。

「ああ。それに、国は違えど民を導く定めに生まれた者同士だろう? 友人のように相談し合える関係を、あなたとは築きたいと思っているんだ。もちろん、互いに公の場では相応に」

 砕けた口調で続けられた言葉に、メアリは思案する。
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