月夜見の女王と白銀の騎士
 フォレスタットとは数十年に渡り同盟関係を保ってきている。

 ヴラフォスとの諍いも落ち着いている今、同盟が揺らぐこともないだろうが、今後も互いに協力関係であるためには、少しでも近しい仲である方が有利なのかもしれない。

「わかりました。では、公の場以外ではそうしますね」

「ありがとう! それと、俺もメアリと呼ばせてもらっても?」

「はい、公の場以外でなら。また町で会うこともあるかもしれませんし」

 互いに名前で呼び合った方が都合のいい時もあるだろう。

 そう思って快く頷くと、ライルは一歩、メアリとの距離を詰めた。

 癖のある髪が、夜風に揺れる。

「ではメアリ、ふたりきりなら公の場でないということにしてもらって、君に質問が」

 今は公の場ではないとした証拠に、ライルは『あなた』という呼び方から『君』に代えた。

 気さくな笑みに、メアリは「どんな質問ですか?」と問う。

「君には決まった相手がいるのかい?」

「決まった相手?」

 交渉相手か何かの話だろうかと首を捻るメアリに、ライルは言った。

「将来を誓い合っている相手のことだ」

 つまり、結婚の予定を聞かれているのだとわかり、メアリは滑らかな頬を染める。

「あ……ええっと」

 ユリウスだと答えようとして、しかし正式に結婚を申し込まれたわけではなく、メアリは答えあぐねて口を噤んだ。
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