月夜見の女王と白銀の騎士
「いないのなら、俺がぜひ立候補したいんだが」

「ええっ⁉」

「ああ、驚いた顔も愛らしいな」

 初々しいメアリの反応を気に入ったライルが「考えておいてくれないかい?」と自分を推す。

 メアリはライルの軽薄さが冗談なのか本気なのかわからず戸惑っていると、いつからそこにいたのか。

「立候補しても無駄ですよ」

 警備の任務にあたっているユリウスが止めに入った。

「陛下、お体が冷えますので中へ」

 メアリの肩に柔らかなケープをかけたユリウスが促すのを見て、ライルは短く溜め息を吐く。

「またあんたか、ユリウス」

「気安く呼ばないでいただきたい」

 メアリの肩に両手を添えたまま笑顔でユリウスが拒否すると、ライルもまた笑顔で応戦する。

「ああ、悪い。じゃあこっちか? ユリウス皇子」

 ライルがユリウスを皇子と呼んだことにメアリは目を見張った。

「知っていたんですか?」

「さっき、君から彼の名を聞いた時にね」

 ヴラフォスの皇子がアクアルーナの近衛騎士になった話はフォレスタットにも届いていた。

 アクアルーナの近衛騎士の中にはヴラフォスのスパイが潜んでいて、その正体は第二皇子ユリウス・イルハザードであったと。

 だが、現在はアクアルーナの王女に忠誠を誓い、現在は近衛騎士として仕えている。
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