月夜見の女王と白銀の騎士
 自国の宰相がそう教えてくれたと続けたライルに、ユリウスは真面目な顔を向けた。

「……気付いていたなら話は早い。メアリと俺は互いに想い合っている仲だ。今後、彼女を口説くのはやめてもらおうか」

 はっきりとした牽制にもライルは引かず、どこか余裕さえ感じさせる笑みを保ったままだ。

「想い合っている、ね。ならなぜ、メアリははっきりとあんたの名前を出さなかった?」

「女王としての発言の重みを理解しているからだろう。それと、近衛騎士であり、ヴラフォスの皇子としての俺の立場を慮ってくれているからだ」

 きっぱりと言い放ったユリウス。

 単に申し込まれてないなと思ったからだとは言えず、メアリは自分の短絡的な性格を密かに猛省した。

「面倒な立場だな。それならいっそ、わかりやすく俺と結婚した方がいい気もするが」

「諦めの悪い男だな」

「よく言われるよ」

 ふたりの間に火花が散り、メアリはこの流れはよくないとふたりの間に入る。

「あのっ、私のことより明日のことです!」

「明日?」

 ライルが顎に手をあて、はてと首を傾げた。

「大事な会談があるでしょう? 縁談話のためではなく国のため、心をひとつにしていきましょう!」

「国のために結婚して心と体をひとつにすればいいと思うが」

 腕を組み、真剣な顔で答えるライルをユリウスが睨む。

「いい加減にしてくれ」

「おっと、本格的にお怒りか? 仕方ない。今夜は諦めようか。陛下、楽しい時間を過ごせたこと、感謝します」

 左手を腹に、右手は後ろに回しお辞儀をすると、ウィンクをひとつ残してライルは去っていった。
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