月夜見の女王と白銀の騎士
 ようやく嵐が去ったような感覚にメアリが胸をなでおろすと、ユリウスが「メアリ」と硬さを持った声で呼ぶ。

「は、はい」

「今夜の約束は覚えてるね?」

 ユリウスの顔に微笑みは浮かんでいるものの、目が笑っていない。

 気付いたメアリは、怒りを感じてコクコクと頷いた。

「もっ、もちろん覚えてるわ」

「では、俺が言いたいことはその時に。イアン殿も心配していたから、今はサロンへ戻って体を暖めて」

 どうやら甘い時間ではなく、ライルの話で嫌な盛り上がりを見せそうな気配を察知し、メアリは内心で肩を落とす。

「ユリウスは?」

 そろそろお開きの時刻だ。

 ユリウスの仕事も落ち着くのではと思い尋ねる。

「俺は部隊の者たちと引き続き警備を。団長への報告が済んだら君の部屋に行くよ」

「ええ、待ってる」

 頷くと、ユリウスと共にサロンへと戻った。

 別れ際、ユリウスが「またあとで」と、メアリにだけ聞こえるように言ってから、お辞儀をして去っていく。

 交代するようにやってきたイアンが「ご無事で?」とメアリに尋ねた。

 どうやらライルの行動をイアンは予想済みのようだ。

 きっとケープもイアンがユリウスに持たせたのだろう。
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